ここにいるのは彼等の意思ではないだろう。

利用され、人間でなくなって。

彼等に今残っているものは一体なんだろうか?





Symphony of destiny  第八章・9





足音を一切立てずに、幸村と蓮二の2人は広い廊下を駆け抜ける。

周囲には見張りの兵士達が何人も立っていたが、誰1人として2人に気付く者はいない。





(まあ、ただの兵達だったら気付かないのも無理はないだろうな。)





幸村の後ろにピタリと付きながら走る蓮二はそう思った。

特別に訓練された兵士達ならまだしも、ここら辺にいるのは彼等に言わせれば雑魚ばかりだ。

戦闘経験もほとんどない、ひよっこばかりが警備についている。 こんなので本当に見張りとしての役割を果たせるのか?と、何度も疑問に思ったほどだ。

しかし今はそれが幸いしているのだが。

ひたすら無言で、走る。 と、急に幸村の足が止まった。





「?」





訝しげにな顔を向けると、彼はこっちだと手招きして傍にあった柱の影に身を潜める。

その横に蓮二も体を滑り込ませた時、何故幸村が隠れたのか検討がついた。





(弦一郎・・・。)





まだ姿は視認出来ないが、真田の気配が近づいていたのだ。 しかしそれはまだかなり遠い。

蓮二でも気付かなかったそれを気付いた幸村は、やはりすごいと言うしかなかった。





(真田が行ってから動くから。 気を緩めないでね。)





口元を微かに動かして、幸村が言う。 それを読み取り、蓮二は頷く。

そうこうしているうちに、真田の姿が現れた。 彼の傍には、赤也もしっかりいる。 気配を消せるだけ消して、2人は身じろぎひとつしない。

普通の者ならばここまでする必要はないのだが、真田だけは別だ。 彼は気配にとても敏感なのだ。

幸村でさえ、時には気付かれてしまうことがあったくらいだ。

息の詰まりそうな時が流れた。 冷や汗が頬を伝う。 と、真田と赤也は2人に気付かずに去って行った。

姿が完全に見えなくなると、2人は少し息を吐いた。 しかし、相変わらず気を抜くことは出来ない。

また目線で合図をし、再び2人は進行を始めた。



                                                   ☆



「おかえり〜。」





そう明るく言うのは、やっぱり千石だった。 彼等はまたも入口の所で、忍足達が戻って来るのを待っていたのだった。

おう。と返す岳人にのほほんとした笑みを返すジロー。 長太郎も、あいさつをする。

と、その中で1人亮だけは辺りを見回して何かを探しているみたいだった。





「どないしたんや?」





忍足がそう尋ねると、あいつがいない。と、亮は返す。

あいつの意味が分からないでいると、はじめがドアを開けて現れた。





「皆さん、よく来てくれました。 おや亮君、淳君を探しているので?」





「うん。 観月、淳はどこ?」





「すいません。 生憎出てていないんです。 今は幸村君と柳君と一緒に王都にいます。

 でもじきに戻って来ますよ。 少し偵察に行っただけですから。」





はじめのその言葉にそう。と、返す。

王都に行ったということで心配そうな顔をしたが、それはすぐに引っ込めた。

と、忍足がはじめに向かって尋ねる。





「観月、祐太の様子はどやった? ってか、うまく闇は抜けたんか?」





「ええ。 ちゃんと抜きましたよ。 もうそろそろ目を覚ます頃ですが・・・。」





そう言って今自分が出てきたドアを見る。 と、ふいにそこから今度は佐伯が出てきた。





「おや? どうしたんですか?」





はじめがそう聞くと、佐伯はほっとしている表情を全員に向けた。

柔らかく、笑う。





「祐太君が目を覚ましたんだ。 ちゃんと元に戻ってたよ。

 兄弟水入らずってことで、出てきたんだ。 僕はちょっと邪魔者だからね。 ・・・でも、兄弟っていいね。」





そう言う佐伯は、どこか遠い目をしていた。 佐伯は思う。

いくら長い時を共に生きてきたとしても、血の繋がりには到底勝てないんだな。と・・・。



                                                       ☆



(ここからが本番だ。)





鋭い目で辺りを油断なく窺う。 とりあえず今、特に以上は見られない。

後ろにいる蓮二にも、緊張が見られた。 それもそうだ。 彼等は今から、城の中で最も危険な場所に足を踏み入れようとしているのだから。

目の前にある階段を上がった先にあるのは、城の中でも最高の警備を誇るフロア。

そこにあるのは、最高権力者である榊と、そのご意見番的な立場にある判田の部屋。

その他にもいくつか部屋はあるが、そこに何があるのかは2人は知らない。 立ち入ったことがあるのは、実は榊の部屋だけだったのだ。





(多分ブン太は榊のではない部屋にいる。 とりあえず、見つからないように探さなきゃ。

 ジャッカルの所にも戻らなきゃいけないし。)





そう思いながらも、決して気は緩めない。 そしてふうと少し行きを吐くと蓮二に軽く合図をし、一気に階段を駆け上がった・・・。



                                                        ☆



「・・・この子ももうそろそろよさそうですね。」





そう言いながら、目の前にある筒を見る。 中は黄緑色の水で満たされており、淡い光を放っている。

その中にいるのは・・・赤い髪をした男。 目は堅く閉ざされており、開く気配はない。





「本当はこうする予定はなかったんですが、ああなってしまった以上しょうがないですね。

 まあこうしたほうが我々にも都合はいいんですが。 裏切ることの無い駒、というのは本当に便利なものですね。」





そう言いながら、部屋の中を歩く。 緑色の光に包まれたこの部屋には、幾本もの筒があった。

その中には全て、何かが入っていた。





「あと少しで私の望むものが手に入る。 あと少しで・・・。

 ・・・おっと、どうやらお客さんが来たようですね。」





判田の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。 それは淡い光に照らされて、凄みを増していた・・・。



                                                          ☆



周囲を油断なく見回すが、辺りに人の気配はない。 それがより不気味に感じたが、止まることなく足を進める。

最上階のフロアに足を踏み入れた2人は、横にいくつも並んだ扉のうちの1つの前に立つ。

迂闊に開けることは出来ないため、蓮二が扉に触れるか触れないかの所に手を翳す。 と、すぐに彼は首を横に振った。

彼は今、扉に手を翳して部屋の中に人がいるか探っていたのだ。 普通はそれは気配で探すものだが、ここではそれはやらない。

その理由は、この階にいる者は並大抵の者ではないからだ。 気配を消すくらいわけはない。

時間をかければ分からなくもないが、それでは見つかるリスクが高すぎる。 そのため、蓮二の力を使ったのだ。





(・・・ここも感じない。)





別の部屋の前でも、蓮二は同じことを繰り返す。

人でもアーティシャルでも、体の構造はほとんど同じだ。 成分のほとんどを、水が占めている。

水のエレメントを持つ蓮二は、その体内の水を感じとっていたのだ。 いくら気配を消したとしても、それは隠すことが出来ない。

それを彼は利用したのだった。





(一体どこに・・・。)





5つほどの部屋を探し、残りもあとわずかになったその時、急に蓮二の様子が変わった。

ここだ。と、幸村に合図をする。 傍に寄ると、蓮二が声を出さずに口だけを動かして言った。





『この部屋だ。 だが、複数の人間がいるようだ。 その全てが動いてはいないが。』





『複数? どういうことだ・・・? ・・・とにかく、入ってみよう。

 でも、気を緩めないようにね。』





そう会話を交わすと、幸村は扉に手をかけた。 音を一切立てずに、ノブを回す。

人が入れるギリギリまで開け、そこに体を滑りこませる。





「!」





中は黒で満たされていた。 外の光が一切入っていない部屋の中。

しかし目が見えなくなることはない。 その中は、淡い光で満たされていた。

そしてその光を発しているのは、部屋中にある筒。 中には緑色の水がなみなみと注がれている。

しかし2人が驚いたのはそれではなかった。 驚いたのは、その中身。

筒の中には、2人もよく知っている人間がそれぞれ入れられていたのだった。





「菊丸・・・伊武、日吉?!」





「精一! 桃城もいるぞ?!」





思わず声を出してそう言った。 そう、そこにいたのは討伐隊の面々だったのだ。

これにはさすがの2人も、面食らった。





「一体どういうことだ? 何故、彼等が? それに、これは一体・・・?」





「教えて差し上げましょうか?」





幸村がそう言った時、ふいに奥からした言葉。 それに、反射的に見る。

果たしてそこにいたのは、ニマニマとした笑みを浮かべる判田の姿だった。





「油断しすぎですよ。 最強の騎士と言われたあなたが、まさかここまで動揺するとは思いませんでしたね。

 ここを見るのは初めてでしょう?」





笑みを崩さず、判田はそう問いかける。





「4人に何をした?!」





呻くように幸村が問う。 それに判田はよくぞ聞いてくれましたと、大袈裟な素振りで言った。





「彼等はもうすでに人間ではありませんよ。 私達の命令に忠実な駒。

 君達のように、裏切ることもないし死を恐れることもない。 最強の兵士と呼んでも過言ではありません。」





「何だとっ・・・?」





「優秀な駒を作るのなら、人間で無くしてしまえばいい。 思考も感情も、全て消し去ってしまえばいい。

 その考えの元、彼等はこうなったのですよ。」





判田のその言葉に、幸村が歯をギリリと噛み締める。 その目は怒りに満ちていた。

部屋の中に、彼の殺気が満ちる。 幸村はじりじりと判田に歩み寄る。





「おっと、あなたの相手は私ではありませんよ。 ちゃんと用意してあります。」





そう言って手をパンパンと軽く叩いた。

すると、部屋の中にもう1つの気配。 現れた人物を見て、2人はさらに目を見開いた。 そこにいたのは・・・。





「丸井・・・。」





そこにいたのは、ジャッカルが捜し求めていた人物。

オーブ保管室の番人の1人である、丸井ブン太だった・・・。









【あとがき】

さあ、遂に判田の部屋にあった筒の中身が発覚いたしました! なんと討伐隊の面々だったんです!

まあ祐太がアーティシャルにされたって下りの部分で、大体予想は付いていたと思いますが。

そしてブン太久々登場! ちょっと可哀想な役になってしまいますが(汗)

可哀想といえば亮もなかなか。 早く淳と会わせてあげたいです。



07.2.28



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