彼はもう、俺の知っている彼ではない。

戦うしかないのか・・・。





Symphony of destiny  第八章・10





「ブン太・・・。」





幸村がそう呻く。 蓮二も、言葉を無くしていた。

2人に近づいて来るブン太。 その目に、光はない。 無表情のまま、彼は歩く。 そして判田を守るように立った。





「まさか・・・。」





2人を見ても何の反応も示さない彼を見て、蓮二が呟く。

それを肯定するように、判田は言った。





「そうです。 彼も既に私の駒の1つ。 私の命令には絶対服従です。

 ・・・さあ丸井君、この裏切り者を倒しなさい!」





そう判田が言った瞬間、ブン太の体が動いた。 一気に2人との距離を詰める。

躊躇ったがこのままではやられる。 2人は覚悟を決めた。





「蓮二! 殺すんじゃないよ!!」





そう言いながら右手を構える幸村。 その手に剣は握られていない。 相変わらず腰にささったままだ。

幸村が何をしようとしているのか感づいた蓮二は、巻き添えをくわないように彼の横から後ろに下がる。





『セイズ!』





そう唱えた瞬間、幸村は右手をバッと横に薙ぎ払った。 途端、ブン太の周囲を囲むように半透明の球状の膜が出現した。

その膜に閉じ込められ、そこから動くことが出来なくなるブン太。





「傷つけたくないのなら、こうして閉じ込めてしまえばいい。 判田、これで丸井の動きは封じたよ。

 次はどんな手で来るんだい?」





判田に向かって、そう言う幸村。 少しは慌てるかと思ったのだが、判田にそんな様子はまったく見られない。

それどころか、彼は笑い出したのだ。





「何が可笑しい?!」





「まったく、君はこの子のことを侮りすぎですよ。 あなたが思っているほど、丸井君は弱くない。

 それに、見た目はそうではなくとも内心動揺しきっていていつもの力をまったく発揮できていないじゃないですか。

 それでは、勝つことは出来ませんよ。」





そう判田が言った瞬間、パリンと音を立ててブン太の周囲を覆っていた膜が砕け散った。

それに目を見開く幸村。 このままではヤバイと感じた蓮二が、幸村を守るように前に出る。





「精一! ここは俺がやる!」





そう怒鳴って腰の剣を一気に引き抜き、ブン太に向ける。 そして床を蹴り、彼の懐目掛けて一気に進んだ。

下段から剣を振る。 それを紙一重で交わし、後ろに飛んだブン太。 足が床に付く瞬間、彼は右手の親指と中指を軽く弾いた。





「くっ!!」





指を弾く微かな音がした瞬間、蓮二は呻いて後ろに飛びのく。 その左肩からは、血が滴っていた。

物理的な何かが傷を与えたわけではない。 彼に傷を与えたのは、音。

ブン太の能力であるこの力は、かなり特殊なものだ。 指を弾いたその僅かな音でも相手に傷を負わせることが出来る。

彼は、自身から発せられた音を鋭い刃と化すことが出来るのだ。 それが相手を切り裂くのである。

彼がその気になれば、自分が足を地につける音でも攻撃が可能だ。 その特殊な力は、3強にすら傷を負わせる。

実質、王都が抱える騎士と戦わせても彼はかなり上位に及ぶ。 それくらい、ブン太は強いのだ。





「少し油断しすぎたか・・・。」





自身の肩を軽く抑えながら、蓮二はそう呟く。 それを見て判田が口元を更に歪める。





「ほう。 あの状態から攻撃を受けて、そこまで交わすとは。 さすが柳君ですね。

 最古の存在でありながらも最強と言われるだけはある。 しかし、それもいつまで持ちますかな?」





判田がそう言うとまた、ブン太が襲い掛かってくる。 弾かれる指。

またも見えない刃が蓮二を切り裂くかと思われたが、同じ手を2度くらう彼ではない。

蓮二は左手を前に翳して唱えた。





『ウォーターシールド!!』





その瞬間、分厚い水の壁が出現。 音の刃はそれを襲うが、水を抉っただけで終わった。





「同じ手を2度くらうと思うな。」





そう蓮二が言うと、判田は返した。





「ええ。 通じる何て思ってはいませんよ。 気付きませんでしたか?

 丸井君がわざと時間がかかるように戦っていることに。」





「「!!!」」





それを聞いた瞬間、2人は気付いた。 ブン太がわざと時間をかけて戦っていたことに。

そして、時間稼ぎをしていた理由も気付いた。





「まさか・・・。」





「そう、そのまさかですよ。 彼が時間を稼いでいた理由は、君達をここから簡単に逃がさないため。

 いくら3強の2人といえど、丸井君の特殊な力の前に苦戦は必死。 その間に応援を呼んでいたんですよ。」





判田がそう言った瞬間、部屋の扉が音を立てて開いた。 そこにいたのは・・・。





「真田に、赤也・・・。」





そこにいたのは鋭い目を向ける真田と、その横で同じように厳しい顔をした赤也の姿だった・・・。



                                                     ☆



「・・・一体、どういうこと・・・何ですか・・・?」





乾の姿を見ながら、途切れ途切れにそう尋ねる。 彼の顔には困惑の色が強く浮かんでいた。

彼が発した、『大石が死んだ。』という言葉。 その意味を、海堂はまだよく理解できていなかった。

いや、することを拒んでいたのかもしれない。 乾が、ゆっくりと顔を上げる。

その顔は、悲しみと疑念で満ちていた。





「・・・そのままの意味だ。 大石が・・・あいつが死んだ。

 ・・・いや、そう言うのは適切ではないな。 正しくは・・・殺されたんだ。」





「一体・・・誰に・・・?」





海堂のその問いに、乾は戸惑ったような表情をする。 言うことを躊躇っているような、そんな表情。

それに訝しげな顔をしながらも、海堂は教えてくださいと言う。





「・・・しかし、このことを知ったことがバレれば俺達の命はないぞ?

 それでもいいのか?」





その言葉に、海堂はふっと笑みを洩らした。





「いいですよ。 ここまでずっと付いてきたんです。 今更自分の命惜しさに、あなたから離れる気はさらさらありません。

 最後まで一緒にいさせて下さい。」





海堂のその言葉に、乾の目から一筋の涙が流れた。

そして、ポツリとありがとう・・・。と呟いた。 その言葉を、海堂は穏やかな気持ちで聞いた。





「・・・お前がそう言ってくれるのなら、話そう。 俺が見たことを・・・。」





そう言って乾は話し出した・・・。



                                                      ☆



「真田・・・。」





扉の所に立つ人物を見て、幸村はそう呟く。

相変わらず、真田の目は2人を射抜くように見つめている。





「では真田君達、あとのことは任せましたよ。」





2人が来たのをしっかりと確認した判田は、そう言って部屋から立ち去る。

彼をみすみす逃がしたくはなかったが、真田と赤也相手ではへたに動くことは出来ない。

緑の光に包まれた空間に、静寂が訪れる。 しかしそれはほんの少しの間だけで、最初にそれを破ったのは真田だった。





「何故、一体何故何だ?」





それには様々な問いが含まれていた。

何故、ここに戻って来た? 何故、王都を裏切ったりした? 何故、自分達を敵に回したりした?

いくつもの想いが重なった問い。 それに、幸村は言う。





「・・・今ここで答えられることはない。 それに、聞いただろう? これからは互いに敵同士だと言ったことを。

 俺は俺の考えがあって行動しているんだ。

 王都の犯している過ちに気付かず、言われたことのみを実行しているだけのお前達に言えることはない。」





そう言う彼の瞳は、強い強い光に満ちていた。





「・・・ならば、俺は今ここでお前を消さなくてはならない。

 幸村! 王都を敵に回したこと、後悔するがいい! ここがお前達の墓場だ!!」





そう怒鳴った瞬間、真田の体がその場から消えた。 次の瞬間には幸村の目の前に、彼の剣が迫る。





「そう簡単にやられはしない!!」





キインという高い金属音を立てて、幸村の剣が真田の剣を止める。

と、その横の蓮二の元には剣を抜き放った赤也と、指を構えたブン太が飛び掛る。





(とりあえず傷の回復だな。)





それに慌てる様子を一切見せず、蓮二はそこから飛びのく。

そして床に着地する僅かな間に、左肩を抑えていた右手に力を集中させる。 放たれる青白い光。

光が消え、彼が手を離したその時には傷は既に癒えていた。 そのまま剣を構えて床に着地した。





「くらえっ!!」





その掛け声と共に、彼に向かって赤也の剣が振り下ろされる。

それを難無く交わしたのだが、今度はブン太が指を弾く。 咄嗟に水の盾を張って防ぐが、その僅かな隙に赤也が背後に回りこんでくる。





「もらった!!」





勢いよく剣が振られる。 しかしその攻撃は、いつの間にか振り向いていた蓮二の剣によって阻まれた。

ヤバいと感じた赤也は、深追いすることなく後ろに下がる。 それを目で追いながら、蓮二は幸村に向かって怒鳴った。





「精一! 長居は無用だ!

 この部屋は狭い! それに早く出ないとこいつらに被害が出るぞ!」





真田と鍔迫り合いをしていた幸村は、その言葉にはっとした。

そうなのだ。 ここには生きているかは分からないが、討伐隊の面々がいる。

今後自分達にな不利状況になるかもしれないが、それでもかつての仲間達だ。 殺したくはない。





「真田。 この勝負預けるぞ!」





そう言うが早いか、幸村は思いっきり剣に力を込めて真田の剣を押し返した。

そして・・・。





『デモライズ!!』





そう唱えた瞬間、蓮二と幸村の足元の床が消え去った。

そこから階下に落ちていく2人。 それを追おうと、3人は飛び降りようとする。





『フィルブレイム!』





しかし突如した蓮二の声。 途端、穴の空いた床が何かで塞がってしまった。





「マスター! 水が!」





蓮二は3人が簡単に追ってこれないように、穴の空いた床を水の膜で塞いだのだった。

真田が舌打ちをする。





「赤也! ここを破るよりも下に向かったほうが早い! 2人共行くぞ!」





そう怒鳴って部屋から走り出る。 その後を赤也とブン太が追う。

階段を下り、廊下を走りながら真田は考えた。





『王都の犯している過ち。』





それが一体何か。 幸村が何故王都を裏切ったか。

今まではあまり考えることはなかった。 彼が自分の敵になったと、思いたくなかったから。

しかし彼は考えようとしていた。 命令されたからではなく、自分で考え本当に知りたいと思ったから・・・。









【あとがき】

久々に真田と赤也が登場した気がします。

そしてこの話で初めて2人幸村達が接触! いやー、ここまで長かったです。

何だかんだ言って幸村達の出番そんなに多くないんで(汗)

そんでもって乾と海堂も何か動きを起こしそうですね。 さあ、このあと一体どうなるんでしょうか?

そしていきなりですが、多分次回で第八章は完結です。

次章では残りのオーブとかまた色々出てきますので、どうぞお楽しみに!!



07.3.4



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