やっと俺の出番かな?

でも、少ししかやることなさそうだけど・・・。





Symphony of destiny  第八章・11





「蓮二、戻れると思う?」





廊下を全力で走りながら、幸村はそう言う。 それに蓮二は否定の言葉を向ける。





「無理だな。 これだけ騒ぎを大きくしたんだ。 今ここで行けば、あいつもただではすまないぞ?

 とにかく今は、脱出するのが先決だ。」





その言葉にやっぱりそうだよね。と返す。 会話をしている間にも、異変に気付いた兵士達がわらわらと出てくる。

しかしそこら辺の一般兵など、彼等の敵ではない。 技を使う間でもなく、剣で次々に昏倒させていく。





「とりあえず正面突破が1番楽かな。 下手に通路使うと逆に追い詰められる危険があるし。

 急いで脱出しよう。 蓮二、出たら直ぐに発動は可能?」





「少し厳しいがなんとかする。 !! 精一!」





突然蓮二が怒鳴る。 気配を感じていたのか、幸村はさっと避けた。

その瞬間、後ろから水の塊が。 それは眼前まで迫っていた炎の塊を消し去った。





「やはりそう簡単には逃がしてくれないか。」





そう呟いて足を止める。 いや、止めざるを得なかったというべきか。

彼等の前には、右手を前に掲げたまま立つ男。 その髪は、白。





「亜久津か・・・。」





蓮二もそう呻くように言う。 彼の目にも光は見えない。

遮るように立つ彼を見て、2人はどうするか考える。

しかし亜久津はそれもさせまいとするかのように、掲げたままの右手を握り、軽く後ろに下げたかと思った瞬間、一気に前に突き出した。





ゴオッッ





途端、幾本もの炎の渦が一気に2人に襲い掛かった。





『ウォーターシールド!』





蓮二が結界を張ってやりすごす。 目標から逸れた炎は、城の壁や天井に突き刺さる。

それを見ながら幸村は言う。





「どうやらかなり俺達を殺したいみたいだ。 手段は選ばないって感じだね。

 さて、どうやって脱出しようかな。 ・・・本気でやっちゃダメかな?」





「・・・今は止めておけ。 お前が本気で技を使ったら、ここら辺一体が廃墟になる。

 ・・・最初の目的は、単なる潜入捜査だったような気がするんだが・・・。」





蓮二がそう言う。 それをまあまあと交わして、幸村は眼前を見据える。

しかし神経はここら一帯の気配を敏感に感じ取っていた。 そして、言う。





「・・・そろそろ真田達が追いつきそうだね。 蓮二、亜久津は頼めるかい?

 残りの3人は俺が相手をするから。」





「嘗めないでくれ。 精一にそこまで負担はかけさせない。

 ・・・多分そろそろ淳が気付くと思うぞ。」





「そういえば彼のこと忘れてた。 じゃあ俺達だけでの脱出は止めようか。

 淳が来たら、脱出しよう。 来るなとは言ったけど、それを素直に守るような彼じゃないからね。

 じゃあそれまでは真田達とやりあって、城に少しでも損害を与えていこう。」





「・・・相変わらず腹黒いな。」





蓮二が最後にポツリと呟いた言葉は、幸村に聞こえることはなかった・・・。



                                                  ☆



「ん? この気配は・・・。」





城を見ていた淳が、異変に気付く。 時折する何かを破壊しているかのような物音。

よく見れば、一部から微かに煙が上がっている。 それにようやく、中で何が起こっているのか感づく。





「戦闘になってるみたいだね。 来るなって言われたけど、そんなの守るわけないじゃん。

 さて、助けに行きますか。」





そう言うと淳は、うーんと軽く伸びをしてから小声で何か唱えた。

次の瞬間、彼の姿は消えていた・・・。



                                                   ☆



「・・・遅いですね。」





そう言ったのは柳生。 彼等は今、屋敷の中でも1番広い部屋にいた。 そこには跡部もいる。

そこで幸村達が戻って来るのを待っているのだが、いかんせん時間がかかりすぎていた。





「何かあったのかな?」





そう言うのは千石。 彼の問いに、誰も答えようとしない。

と、ここで言葉を発したのははじめだった。





「もしかしたら戦闘になっているかもしれませんね。 でも、そこまで心配する必要はないと思いますよ。

 あの2人が強いのは、皆さんご存知でしょう? それに、淳君もいます。

 戦闘能力はそこまで高いわけではありませんが、彼は優秀です。 待っていれば必ず戻ってきますよ。」





はじめのその言葉に全員は頷くしかなかった。 ただ、穏やかな時が流れていく・・・。



                                                     ☆



「幸村・・・。」





「さあ、真田。 第二回戦だ。」





追いついた真田達に向かって、幸村は剣を抜きながらそう言う。

それを見ながら、赤也は真田に問う。





「マスター、俺はどうすればいいですか? 邪魔しないほうがいいっすよね?」





「そうしてくれると助かる、と言いたい所だが今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。

 確かに2人で決着をつけたいが、このままでは城に甚大な被害が出る。

 それを少しでも抑えるためには、戦闘を早々に終わらせる必要がある。 そのためにはお前の力が必要だ。

 だから赤也、お前は傍にいてくれ。 丸井、お前は蓮二のほうを頼む。」





真田がそう言うとブン太は軽く頷き、蓮二に向かって一気に跳躍した。

彼が去ると、2人は幸村に向かう。 今、彼からは恐ろしいほどの殺気が放たれていた。

無意識のうちに、怖いと本能が感じてしまう。





(俺はマスターの役に立つ。 こんなとこで、やられるわけにゃーいかねーんだよ!)





心の中でそう自分に言い聞かせる。 すらりと剣を抜く。 真田も同じように抜いて構えた。

そして今まさに戦闘が開始されようとした瞬間!





カッッ





突如眩い光がその場に満ちた。 それと共に現れるもう1つの気配。

しかしあまりにも光がまぶしすぎて、真田達は目を開けることが出来ない。 と、幸村の声が聞こえてきた。





『残念だけど真田、今日の所はここまでだ。 またな。』





そう言う声が聞こえたかと思うと、その場に満ちていた光が急速に消えていった。

そしてそれが完全に消えた時、そこに幸村達の姿は跡形もなくなっていた・・・。



                                                   ☆





「・・・戻ってきましたね。」





はじめがそう言った言葉を理解する前に、部屋の中に眩い光が満ちた。

それが消えた時、そこにいたのは王都に行っていた幸村達だった。





「淳!」





2人の傍にいた淳の元に、亮は駆け寄る。 彼の姿を見て、淳の顔も綻んだ。





「亮! いつここに来たのさ?」




互いに再会を喜び合う2人。 その横では、はじめが幸村に話を聞いていた。





「それで、どうでしたか?」





「状況は思っていたよりも悪いよ。 とりあえず、俺が仲間にしたかったジャッカルは今の所不可能だ。

 彼はオーブ保管室に拘束されている。 迂闊に出せば、俺もただではすまない。

 まあ、このことは少しは予測出来なくはなかったんだが、それよりも悪い知らせがある。

 討伐隊のメンバーが全員捕まっている。 判田は『自分の駒』だと言っていたが、どういうことなんだ?」





幸村のその言葉に、はじめ達の顔が曇る。 そしてそれについて、説明しようと口を開いた時、急に部屋の扉が開いた。





「祐太君?!」





そこにいたのは、不二と祐太だった。 まだ少し顔色は悪かったが、それでもしっかりと立っていた。

祐太の顔を見て、事情を知らない幸村と蓮二はかなり驚いていた。 彼等に、簡単に経緯を説明する。

それを聞いて納得し、祐太のほうを向く。





「祐太君、君は何か知っているのかい?」





「はい。 あまりはっきりとは思い出せませんが。

 とりあえず俺のことを話そうと思います。 俺は室町さんと一緒に各地に任務に行っていました。

 ある時、報告のために王都に戻りました。 その時判田様に呼ばれたんです。 ・・・それから後の記憶はまったくありません。

 気付いたらここで、兄貴が俺の傍にいました。 ・・・あまり役にたたなくてすいません。」





「いえ、ありがとうございます。 今の話で大体分かりました。

 幸村君、あなたが見た討伐隊のメンバーは残念ながらもう人間ではありません。

 祐太君と同じように、アーティシャルにされてしまっていると考えるのが妥当です。」





はじめのその言葉に、祐太の顔に驚きの色が浮かんだ。





「そんな、まさか・・・?! 俺がもう人間でないことは感覚的に分かります、兄貴にも聞きました。

 でもまさかあの人達が?! そんなこと・・・。」





「残念ですが事実というしかありません。 話から察するに、僕と同じ力を持つのはその判田という者に間違いないでしょう。

 人間をアーティシャルにすることは、普通出来ませんから。

 ・・・状況はあまりよくありませんね。 早くこちらもオーブを入手しなければ。

 水の欠片がある限り、封印は完全には解けませんがそれでも危険です。」





そう言って、顎に手を当てて何か考えるはじめ。

と、今まで黙っていた蓮二が不意に幸村に尋ねた。





「そういえば精一。 地下の牢獄で何を見つけたんだ?

 あとで話すと言っていたから今まで聞かなかったが。」





蓮二からその言葉を聞くと、全員が訝しげな顔をした。 その中、幸村の顔が見るからに強張っていくのが分かった。





「そうだった・・・! 悪い知らせがもう1つだ。

 地下の牢獄に亜久津がいないか、一応確認しに行ったんだ。 そこで彼の残したメモを見つけたんだ。」





「それには何て書いてあったんや?」





忍足のその言葉に幸村は少しの間を開けて、言った。





「『榊のエレメントは・・・闇。』」





その言葉に絶句する魔導士の3人。 その意味が分からず、他の面々は首をかしげている。





「そんな、まさか?! あの人は普通の人のはずです!

 エレメントを持っているなんて。 それに闇ですって?! 何て都合の悪い・・・。」





柳生がそう呻く。 意味が分からず、他の面々は説明してくれと口々に言う。

それに、忍足が青ざめながらも話しだした。





「・・・闇のエレメントは、言っちゃ悪いがかなりタチ悪いんや。 使い方を間違えれば、人を操ることも可能や。

 そうか、だから祐太は操られとったんやな。 人工に創られたオーブに闇を流し込み、それを人間の肉体の中に入れる。

 これで奴等の操り人形の完成や。 どんな命令も聞く、兵器と化す。

 ・・・ってことから考えると、王都にいる3強も影響受けとる可能性高いな。」





「もっと悪いこともあります。 闇の影響を受けているのなら、あそこにも入ることが可能です。

 このままではあれも奪われてしまいます。」





「あれって何?」





ジローが真剣な表情で尋ねる。





「・・・闇のオーブです。 あれは闇に覆われた所に安置してあります。

 そこに入るためには闇への耐性が無くては入ることが出来ません。 そのため、僕達の中では忍足君と不二君以外は生身では入れません。

 しかし王都にそれだけ闇の影響を受けている者がいるのなら、簡単に入ることが出来るでしょう。

 ・・・闇のオーブが奪われたら、光のオーブまで危険に晒されます。 闇と光は一対の存在なんですから。」





はじめのその説明に、今度こそ本当に全員の顔に焦りの色が浮かんだ。

忍足が言う。





「観月、俺がすぐに行く。 必ず持って戻って来るさかい。

 長太郎、行くで! 俺がいれば、耐性の無い自分でも入ることは可能やから。」





「足手まといになりませんか? 俺では・・・。」





「そんなことはあらへん。 それに、付いて来てくれるんやろ?」





忍足のその言葉に、長太郎ははい。と頷いた。 はじめが言う。





「分かりました。 闇のオーブは任せます。 あれはまだちゃんと『ダルトメア』にあります。

 僕は念のために、1度光の様子を見てきます。 柳生君、皆のことを頼みましたよ。 淳君、一緒に行きますか?」





「行くに決まってるでしょ。 亮、行って来る。」





「ああ。 気をつけてな。」





そう亮が言うと、淳は軽く微笑んだ。 そして光と共に2人の姿が消える。

後に残ったメンバーの中で、不二が言った。





「忍足、僕も行くよ。 闇のエレメントは僕も持ってる。

 何かあった時のために、戦えるには人数がいたほうがいいでしょう?」





「だったら俺も行くよ。 周助を1人で行かせるわけにはいかない。 いいよね?」





そう申し出た不二と佐伯に、忍足は頼むと言った。

彼等の傍では、祐太が心配そうな顔をしている。 それに気付いた不二は、彼の頭に手を軽く置いた。





「大丈夫だから。 祐太は心配しないで。」





「子ども扱いすんなよ。 心配なんかしてねーよ!」





強がってそう言う祐太の姿に、不二は笑みを洩らす。 ごねん、と言って手を離した。

そして、忍足の傍に行く。





「じゃあ行ってくるからな。」





そう言うと、忍足は呪文を唱える。

そして足元から出現した闇が彼等を包み込んだ。 それが消えた時、4人の姿はどこにも無かった・・・。



第八章・完結









【あとがき】

終わったー!! 多分こんな早く一章を書き終わったのは初めてです♪ かなり頑張りました!

さて、今回はまた色々分からなかったことが明らかになりました。 ・・・ちょっと可哀想な展開になっているのもありますけど。

さあ、魔導士達は無事にオーブを守ることが出来るのか?! そして主人公のはずの跡部の出番は?!

すいません。 実は彼の存在、忘れかかってました(汗) 次は出番を!

残る所もあと僅かとなってきました。 頑張って書いていきますので、どうか最後までお付き合いくださいませ・・・。



07.3.6



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