闇に覆われた地。 そこに光はなく、ただただ黒が存在するのみ。
そこに安置されし、闇の塊。 それを巡って今、闇を操りし者と闇の人形が激突する―――。
Symphony of destiny 第九章・1
「申し訳ありません。」
そう言って頭を下げるのは真田。 その横には悔しそうな顔をした赤也もいる。
彼等は今、榊の部屋にいた。 そこにブン太と亜久津の姿はない。
椅子に座る榊は2人を見て、口を開いた。
「逃がしてしまったのは痛いが、被害が少なくてよかった。
幸村と柳が何故今更ここに戻って来たのかは分からないが、それはいい。 オーブも無事だったしな。
とりあえずお前達は休んでおけ。 2人のことについては、分かり次第連絡する。」
その言葉に再び深く頭を下げ、2人は部屋を後にした。
誰もいなくなると、榊は奥の部屋へと向かう。
「少し不安はあったが、それも取り越し苦労だったようだ。 こいつはもはや完全に人形と化した。
さて、これで太一も暴走する危険はなくなったな。」
そう呟きながら、目の前にある筒に右手をつける。
中に入っていたのは、亜久津。 目はしっかりと閉じられ、開く気配はない。
炎を操る姿とはあまりにもかけ離れていて、弱々しい。
「さて、そろそろこちらも行動を開始するとしよう。 ・・・駒は揃った。」
淡い緑の光の中、亜久津を見ながら榊はそう呟いた・・・。
☆
「そうだ、すっかり忘れてた!」
忍足と長太郎、それにはじめと淳が屋敷を出て行って少し経った時、滝が急にそう言った。
それに、何事かと彼を見る面々。
「一体どうしたの?」
「これだよ。 これのことすっかり忘れてた。」
そう言って懐からおもむろに取り出された物に、さっきお茶を一緒に飲んでいた面々は納得したかのような顔に戻った.
しかし話を聞いていない面々は、かなり驚いていた。
「なっ、何でそれがここに?!」
「話すと長くなるかもしれないからそれは省くけど、とにかく手に入れたんだ。
柳君、欠片1つ持っているって聞いたんだけど。 ある?」
滝がそう問うと、蓮二はああ。と言って懐から青い欠片を取り出した。
それを滝に見せる。
「これだ。 持っていて思ったが、どうやらこれは欠片の状態だとあまり力を発揮しないらしい。
持っていて俺の能力が上がったという感じはしなかった。 完全な形で、初めて威力を発揮するのだろう。」
「そうなのか・・・。 とりあえず、くっつけようか。
あと1つは王都にあるから、ここで完全な形にするのは不可能だけど。」
滝のその言葉に、蓮二は頷く。 そして、欠片を持っている自分達の手を近づけた。
すると、欠片は互いに青白い光を放ち始めた。 そしてふわりと宙に浮く。
光は一層強くなり、2つは引き合うように重なった。 ピタリと重なると、光は急速に消えていく。
そして完全に消えた時、そこには未だ不完全ながらも以前よりも強い輝きを放つオーブがあった。
「・・・先ほどよりは大分強くはなったな。 とりあえずこれは・・・。」
そう言いながら、周囲を見回す。 と、柳生と目が合った。
「いいか?」
「ええ。 預かりましょう。 ここなら、そう簡単に見つからないですから。」
「頼む。 俺達が持っていても奪われる危険が増すだけだからな。
精一、いいだろう?」
「ああ。 そのほうが安心だ。
・・・さて、これからどうするんだ? ここにずっといてもしょうがないだろう?
少しでも行動を起こしたほうがいいんじゃないか?」
幸村のその言葉に、全員は考え込む。 確かにその通りだった。
ここにいる間にも、事態は動いている。 忍足と長太郎がダルトメアへと向かい、はじめと淳が光のオーブを見に行った。
そして時のオーブをその身に持つ跡部も、ここにいる。 決して有利とは言えないが、完全に不利でもない。
しかし、それでも不安は尽きない。 何か行動を起こすべきかと考える面々に、柳生が口を開いた。
「いえ。 行動を起こすのはよくありません。」
その言葉に、訝しげな顔をする。
「何で?」
「今ここで行動を起こすことは、あまりにも危険すぎます。 ここでどなたかが捕まったりしたらどうするんですか?
これ以上、相手の戦力を増やさせるわけにはいきません。
・・・とりあえず、待ちましょう。 少なくとも、何かしらの動きがあるまで・・・。」
柳生のその言葉に、全員は頷くしか出来なかった・・・。
☆
「・・・。」
自室で椅子に座り込み、ひたすら物思いに耽る真田。
その姿に、いつもの強い覇気は感じられない。 どれくらいそうしていただろうか?
不意に部屋のドアが開く音。 ゆっくりとした動作で振り向けば、そこにいたのは赤也だった。
「・・・どうした?」
そう言う声は、自分でも情けないと思うほど弱いものだった。
その声に少し下に俯き、赤也は口を開いた。
「・・・知りたいと思わないんすか・・・?」
「・・・何?」
赤也のその言葉に、少々面食らう真田。 それを気にしてはいないのか、赤也は続ける。
「・・・幸村さんが言ってたこと、すごく気にしてるんすよね?
だからこんなに悩んでる。 だったら、調べればいいじゃないっすか。 『王都の犯している過ち』ってやつを。」
俯いていた顔を上げて、そうはっきりと言う。 その姿に、真田は動揺を隠せなかった。
確かに気になる。 しかし、それを調べてもよいものか・・・。
知らせてこないということは、王都にとって知られたくない情報のはず。 しかし、もしも幸村が嘘をついていたら?
嘘をついていて、本当に世界を手に入れたいがために自分達を裏切ったとしたら?
彼が言った言葉も、自分達を惑わせるためのものかもしれない。
決して答えに辿り着かない思考。 それを先ほどから真田はずっと繰り返していたのだった。
「・・・確かにお前の言う通りだ。 俺はあいつの言った言葉がどうしても引っかかって仕方がない。
しかし、俺がここを離れるわけにはいかんだろう? 3強なのだから、勤めが・・・。」
「3強とか、そんなのはどうでもいいじゃないっすか!!」
いきなり怒鳴った赤也。 彼は今まで1度も、自分にこうして激しく意見を言ったことはなかった。
それはアーティシャルとしては当然のことなのだが、赤也の場合よく今まで言わなかったったと思うくらいだった。
目を見開いて驚く真田。 更に赤也は怒鳴る。
「3強ががどうとか、王都がどうとか。 そんなのどうでもいいじゃないっすか!
マスターがどう行動しようなんて、他の奴が勝手に決めていいもんじゃない! マスターはマスターの意思で行動すべきっす!
そりゃ確かにこんなこと、言うべきじゃないってのは分かってる。 でも、もう我慢の限界だ!
何時まで王都の、榊様の言いなりになってんすか?! マスターは人形じゃない! 俺と違って、ちゃんと生きてる人間だ!!」
ここまで一気に怒鳴ると、興奮のためか多少顔が赤らんでいた赤也は口を閉ざした。
彼のその言葉にはっとした。 確かにそうだった。
自分は榊の命令を忠実に聞いて、いつもそれを実行してきた。 手もたくさん汚してきたし、やりたくないこともあった。
しかし自分は忠実な部下だからと本当の心を隠して、今まで生きてきた。
幸村が裏切ったと聞き、榊から彼の抹殺命令が下された時もそうだった。 本当は、好きで追っていたわけではない。
殺さなくてはと思って無理に納得しようとしている頭とは裏腹に、体は思うように動かなかった。
「・・・マスター、あなたは本当にどうしたいんすか・・・?」
先ほどとは打って変わって小さな声で赤也は問う。
それに真田は椅子に深くその身を預ける。 そして軽く目を閉じ、ゆっくりと口から言葉を紡いだ。
「俺は・・・。」
彼が本当に望むこと。 それは一体・・・?
【あとがき】
やっとこさ始まりました! 第九章。
大変遅くなって申し訳ありません(汗) やっぱり章の最初は苦手です。
そろそろいろんな人が動き出します。 だけど展開がつまり気味・・・。
キャラ設定複雑にして、ここでこうも苦しむとは思わなかったです(滝汗)
とりあえず、残す所もあと僅かです。 今後も楽しんでいただけたら幸いです・・・。
07.3.23
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