なんて場所なんだ。 こんな所が存在していたなんて・・・。

息が詰まりそうだ。 だけど、そんなのにめげてるわけにはいかないな。





Symphony of destiny  第九章・2





「遅くなりました。」





そう言って部屋に入ってきたのは手塚。 呼び出した張本人の榊は、その声に今まで背を向けていたが振り返った。

目に、凛として佇む手塚の姿が目に入る。 彼の傍に、リョーマの姿は無かった。





「ああ。 急に呼び出してすまなかったな。

 早速だが、任務へ向かってもらう。 場所は『ダルトメア』と呼ばれる、遺跡だ。」





その言葉に、手塚の顔が若干顰められる。





「それは一体どこですか? 聞いたことがありませんが・・・。」





「それもそうだろう。 あの遺跡の存在は、今まで魔導士達によって隠されてきたからな。

 しかしそれも無駄なことだ。 以前お前にも見せただろう? あの500年前の真実を記した書物を。

 実はあれには隠されたページが存在していてな。 そこにダルトメアのことについての記述がされていたのだ。

 それを見つけた時は何のことだか分からなかったが、最近闇のオーブがそこにあることが発覚した。

 お前にはすぐにそこへ向かってもらう。 行って、必ず闇のオーブを入手してこい。」





「はい。」





そう言って頭を下げる。 と、榊が再び言った。





「それで今回だが、越前は置いていけ。 あの場所はあいつには危険だ。 エレメントの関係でな。

 だがお前1人では些か不安だろう。 魔導士の連中が動いている可能性もあるからな。

 だからお前の助けになる者達を、既に向かわせておいた。 遺跡の所で合流しろ。

 あと、越前がいないからな。 これを持っていけ。」





そう言って榊から手渡されたのは、時の欠片。





「これには、既にダルトメアまでのルートを記憶させてある。 他の場所へは行けないがな。

 ・・・闇のオーブは何があっても入手してこい。

 あと、出来るだけ来ているはずの魔導士側の連中も生きて連れて来い。 ・・・分かったな?」





手塚の目をまっすぐに見ながら、榊はそう言った。

その言葉を聞く彼の目には、何故か光が見えない。 手塚は、頷く。





「はい。 仰せのままに・・・。」





そう言うと、彼は踵を返して部屋を出て行った。

1人残った榊は、くつくつと笑う。





「いい感じだ。 この調子なら、問題はないだろう。」





彼の周りに、何か黒いモノが蠢いていた・・・。



                                                     ☆



「着いたで。 ここが、ダルトメアや・・・。」





そう言って、忍足は目の前を見据える。 そこにあったのは、ぽっかりと漆黒の口を開ける1つの穴。

大きさは、人1人がやっと入れるくらいだった。 ここの周囲は、木々に覆われていてこの場所から空を見ることは叶わない。

どうやら深い森の中のようだった。 しかし、それだけではなかった。

周囲には、重苦しい空気が流れていた。 あまりの重苦しさに、息も詰まりそうなくらいだった。

忍足と不二はエレメントの関係上、表情は多少険しいものの苦しそうではなかった。

しかし長太郎と佐伯は違った。 冷や汗が額を伝い、呼吸も些か苦しそうだった。

その変化にいち早く気付いたのは、不二。





「大丈夫? 結構苦しそうだけど。」





心配そうな表情で尋ねる。 それに口では大丈夫と答えるが、全然そうには見えなかった。

と、今まで前を向いていた忍足が振り向いた。





「やっぱ危険やったかな。 せやけど、ここまで来たんやから返すわけにはいかへん。

 長太郎、悪いな。 無理矢理連れて来てこんな苦しい思いさせて。」





「いえ、俺は大丈夫ですから。 気にしないで下さい。」





そう無理に笑顔を作って言うが、見た目は全然大丈夫そうではなかった。

と、不意に忍足は2人の前に手を翳した。





「とりあえず、結界張っとくから。 せやけど、それでも少し苦しいかもしれへん。

 中はここの比じゃないくらい、闇が濃いからな。 そん時は、ちゃんと言えよ。

 対策考えるさかいな。」





そう言って忍足は言霊を唱える。

すると、薄い黒い膜が2人を包み込んだ。 それが全身を包み、忍足が唱え終わると2人の顔は先ほどとは打って変わって楽そうになっていた。





「どうや? 少しは楽んなったか?」





「はい! 少しというか、全然楽っすよ。 ありがとうございました。」





笑顔でそう言う長太郎。 あまりの変わりように張った本人も多少面食らっていたが、少しして笑みを浮かべた。

佐伯もどうやらよくなったようだ。

それを確認すると、忍足は顔を引き締めた。





「じゃあ、そろそろ行くで。」





その言葉に、全員も真剣な顔に戻る。 そして、忍足が先を歩いて穴の中に入って行く。

辺りにはまだ、重苦しい空気が流れていた・・・。



                                                      ☆



「・・・そんな・・・。 そんなことって・・・。」





机に両手を付き、うな垂れる海堂。 その傍には、複雑な面持ちをした乾が立っていた。





「・・・そんなことって、あっていいんすか?」





下を向いたまま、海堂はそう呟く。 その問いに乾は返答に詰まる。

しかし少しの沈黙の後、口を開いた。





「・・・分からない。 だが、俺はあってはいけないことだと思う。

 あの人達は、命をなんとも思ってなんかいない。 不要だから切り捨てる。 そして自分の玩具にする。

 それがあっていいと思うか? ダメだろう?

 ・・・海堂、俺はもっと調べてみようと思う。 今回のことだけじゃなく、他にも何かあるはずだ。

 調べてどうこうできるわけではないかもしれないけれど、このまま知らぬふりをするのは嫌だ。」





海堂を見るその目には、強い意志が宿っていた。

眼鏡ごしであまりよく見えたわけではないけれど、海堂にはよく分かった。





「・・・なら、俺も協力します。」





そう言って海堂は顔を上げた。

目には、乾と同じ強い光。 それは真っ直ぐ彼に向けられる。






「ここまで話を聞いて、手を引く理由なんてありません。 前も言ったように、俺は最後まであなたについて行きます。

 ・・・出来る限りのことをしましょう。」





こう言って、海堂は軽く口元に笑みを浮かべた。 それに乾もつられて笑みを返す。

・・・彼等が知っていることはあまりにも少ない。 果たして2人は・・・?

このことを知る者は、まだ誰もいない・・・。



                                                       ☆



「ここか・・・。」





1人呟くのは手塚。 目の前には黒い穴がポッカリと開いていた。

時の欠片を使い、一気にここまで飛んで来た。 周囲には闇が充満していたが、何故か手塚の顔には苦痛の表情はない。

と、その時。





「・・・遅かったですね。」





そう声がし、木々の間から現れた2つの人影。 それは日吉と桃城だった。

言葉を発したのはその片方。 日吉のほうだった。





「そんなことどうでもいいだろう? 何か分かったことは?」





淡々と、手塚は言う。





「特に何もなかったです。 魔導士達の姿も見ませんでした。

 この周囲も探索してみましたが、魔物の姿すらありません。」





「そうか。 なら、魔導士がやって来る前に行くぞ。

 オーブがどこにあるか分からない以上、隅々まで探索するしかない。

 敵が来たら、地の利では我々は圧倒的に不利だからな。」





手塚のその言葉に、2人は頷く。

この時まで、日吉の傍にいた桃城はほとんど身じろぎもせずに立ち尽くしていた。 言葉を発することも、1度もない。

棒のように、立っていた。





「行くぞ。」





そう言って手塚は歩き出す。 彼の後ろを、2人も追う。

そして3人は、闇に包まれた穴の中に姿を消した―――。









【あとがき】

手塚達もダルトメアに着きました! そして遂に中に。

ちなみに何故忍足達の姿を日吉達が見ていないかは、今回は秘密です。

決して忘れてたわけではないので、あしからず。

さあ、これで第九章の賽は振られました。 次からは展開がもっと早くなるかな?

戦闘シーン書きたい・・・。



07.3.26



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