絶対に渡すわけにはいかへん!

何がなんでも、これは俺達が手に入れてみせる!!





Symphony of destiny  第九章・4





「濃いね・・・。」





そう言いながら、不二は微かに眉を顰める。 その言葉に反応して、忍足も背を向けたまま頷いた。

そして不二の少し後ろにいた長太郎と佐伯も、不快なのか若干眉をひそめていた。

足を踏み入れたそこは、雰囲気から察するにそうとう広い場所のようだった。

しかし辺り一面に充満する闇の力のせいで、全員には相当な圧迫感がしていた。





「少し・・・息苦しです。」





若干荒い息をしながらそう言ったのは長太郎だった。

いくら忍足が結界を強くしたといっても、負担はかかっているようだ。

佐伯も同じなのか、その表情は少し歪んでいる。 そんな2人を見ながら、不二は心配そうな声で忍足に言う。





「ねえ忍足。 早くしないと2人が・・・。」





「シッ!!」





不二の言葉を遮って、いきなり忍足が彼を黙らせた。

それに彼も何かを感じたのか、言おうとした言葉を呑み込む。 耳も痛くなるほどの静けさがその場を包み込む。

4人の周囲に漂う光だけが、異質なもののように存在していた。





『ダークシールド!!』





突如沈黙を破って忍足が唱えた。 瞬時に出現する闇の盾。

そこにほんの僅かの差で、強い衝撃が走った。





「「なっ?!」」





今まで何の存在も感じていなかった3人に驚きの表情が浮かんだ。

突然のことで戸惑う彼等のほうを振り返ることなく、忍足は目の前の闇の中を睨みつけている。 そして・・・。





「ええ加減、出てきたらどうや?」





彼のその言葉に、眼前の闇が動いた・・・。



                                                      ☆



「すごい濃さだ・・・。」





一歩足を踏み入れた途端、日吉が呻くように言った。

しかし手塚は特に何も感じないのか、表情を崩さない。 桃城も相変わらず無表情のままだった。





「・・・どこにある・・・?」





周囲に軽く目線を向けながら、手塚は呟くように言う。 その眼光は鋭い。

しかし不思議なことに、その目には光が無かった。 と、その時。





「光が。」





不意にそう言ったのは、今までずっと沈黙を保ってきていた桃城だった。

彼のその言葉に、手塚と日吉はその方向を見る。 すると、ぼんやりとだが明るい光が見えた。





「何で今まで気付かなかったんだ? こんな中で、光なんて目立つだけなのに・・・。」





そう日吉が呟く。

確かにその通りだろう。 だが、気付かなかったことを説明できる者はいない。

と、今まで光を凝視していた手塚が口を開いた。





「榊様のご命令だ。 魔導師は出来るだけ生きて連れて来い。

 ここにいる以上、奴等である可能性は高いだろう。 命令を遂行しろ。 絶対に殺すな。」





彼のその言葉に、2人は無言で頷く。 そして・・・。





「やれ。」





手塚のその言葉で、日吉は腰から剣を抜く。 そして左手を前に出し右手を後ろに下げるという独特のポーズを取った。

そして・・・。





『スワイル!』





そう唱えた瞬間、後ろに下げていた右手を一気に前に押し出した。

前に出された剣を中心に、風が渦を巻く。 それは勢いを増し、光へと向かって一直線に飛ぶ。

日吉のエレメントは風。 だからこそ出来る技であった。





『ダークシールド!』





やれるかと思われたが、その場に何者かの声が響いた。 それによって防がれる、彼の技。

風が消え去ってすぐ、光の中から声がした。





「ええ加減、出てきたらどうや?」





独特な喋り方の声が響く。

その声がすると、手塚は日吉達に何も言わないまま足を進めだした。

その後ろを、日吉と桃城の2人は無言でついて行く。 そして・・・。





「よく分かったな。」





手塚が足を止めてそう言う。

彼等の前の光の中にいたのは、4人の人物だった・・・。



                                                       ☆



「手塚・・・さん。」





闇の中から浮かび上がった人物の姿を見て、長太郎がそう呻くように言う。

それに、目の前にいるこの人物が王都の抱える3強の1人である手塚だということに気付く。





(なんて威圧感だ。)





そう思う。 ただ立っているだけというのに、目に見えない重圧を感じる。

同じ3強であった幸村とはまた違う重圧。 彼とは違い、手塚のは暗く、重い。





「自分が3強の手塚か。」





忍足がそう問う。 それに手塚も口を開く。





「そうだ。 貴様が魔導師か。

 ・・・やはり裏切っていたか、鳳。 千石だけでなくお前も奴等の口車に乗せられたか。」





「違います!」





手塚のその言葉に、長太郎が声を荒げた。

いつもは穏やかな彼からは、想像も出来ないほど荒く言う。 それほど、彼は忍足のことを思っていたのだ。





「違います! 俺は自分の意思でマスターと共にいる! マスターのことをそう言うのなら、例えあなたであろうとも許さない!

 それに、間違っているのはあなただ! 自分の意思を持たず、王都の言いなりになっているあなたのほうだ!!」





「長太郎・・・。」





怒鳴る長太郎。 彼の言葉に、忍足はこんな状況でも喜びを感じずにはいられなかった。

出会いは、絶望の中だった。 前の主に強制的に契約を切られ、眠りについていた。 覚めた時には5年もの月日が流れ、頼るべき者もいない。

そんな中で彼は、その場で始めて会った自分を主として契約を結んだ。

時々考えていた。 長太郎は本当に望んで自分と契約を結んだのかと。

とりあえず頼る者が自分しかいなかったから、嫌々契約を結んだのではないかと。

しかし今の言葉で、本当に長太郎が望んで自分といてくれることが分かった。





「ふん。 正しいのは榊様だ。 こいつらのような者達ではない。

 ・・・話しても無駄だな。 榊様の命により、闇のオーブは我々が持って行く。」





「そうはさせへん。 王都の手になぞ、何があってもくれてやらん!」





そう言うが早いか、忍足は右手を瞬時に出現させた空間の狭間に突っ込んだ。

手を抜いた時、その手には周囲の闇と同じくらい濃い色をした、漆黒の杖が握られていた。





「勝手にほざいていろ。」





そう言うと手塚も腰の剣を引き抜いた。

これに合わせるように、それぞれの後ろにいた不二や佐伯、日吉に桃城も剣を引き抜く。

ピリピリとした空気が漂う。 そして・・・。





『ダルシィス!』





沈黙を破って、不二が呪文と共に剣を真横に薙ぎ払った。

その瞬間、無数の闇の刃が手塚達に襲い掛かる。 しかしそれは難無く避けられてしまい、3人は闇に紛れ込んだ。





「くそっ。 これじゃあ正確な攻撃が出来ない。」





悪態をつく不二。 それに佐伯が尋ねる。





「何か出来ないの? 周助のエレメントは闇じゃない。

 この場所を利用して攻撃するとかは・・・?」





「結論から言って出来なくはないが、そうすると自分等の体が持たへん。

 俺の張る結界じゃあ、その攻撃を防ぐことは不可能や。

 出来るのは間逆のエレメントを持つ観月か、幸村の攻撃も防げるジャッカルって奴くらいや。」





忍足のその言葉に、佐伯と長太郎はうな垂れる。





「・・・じゃあ、俺達のせいなんすね・・・?」





長太郎がそう言う。 しかしそんな彼の頭にポンと優しく手を置き、忍足は言葉をかける。





「そんなことあらへん。 自分等のせいなんかやない。

 確かに2人がいなかったら攻撃は出来る。 せやけど、それが通じるなんて保障はどこにもあらへん。

 あいつらは榊って奴に、闇の耐性を確実につけられとる。 そうでなきゃ、この場所におるなんて出来へん。

 俺等のその闇の攻撃が通じる保障なんて、どこにもないやろ? せやから、長太郎のせいなんかやない。

 自分を責めるんやない。 な?」





彼のその言葉に、長太郎はようやく顔を上げた。





「・・・はい。 すいません。 いつもこんなで。

 俺は、マスターの役にいつも立てない。 足を引っ張っているだけだ。」





「やからそんなことあらへんって。

 さあ、あいつらに闇のオーブを渡すわけにはいかへん。 戦えるか?」





「はい。」





静かに、しかし力強く長太郎は言う。 それに安堵の表情を浮かべた忍足。

しかしすぐに鋭い顔つきに戻る。 そして、不二と佐伯のほうを向いて言う。





「3人共。 少しの間、俺の傍から離れるんやないで。」





そう言うが早いか、忍足は右手に持っていた杖の先端を闇に向けて言い放った。





『ブレイジング!!』





その瞬間、巨大な炎が出現しその場全体を紅く照らし出した。

それによって曝け出される3人の姿。 彼等が見えたのを確認するやいなや、不二達は一斉に向かって行く。





『ブリード!』





不二が唱えると、炎の中に僅かに残っていた闇の中からいくつもの不気味な手が出現した。

それはものすごい勢いで3人に向かう。 手塚と日吉はそれを避け、それぞれ攻撃を繰り出す。

しかし桃城は僅かに避けそこね、体勢を崩す。





「もらった!!」





その隙を逃さず、佐伯が圧縮した風を放つ技、スラップを放つ。

しかしそれは彼に当たることはなかった。 ものすごい勢いで桃城は、傍にあった巨大な岩を掴んで投げたのだ。

咄嗟に避けたため喰らうことはなかったが、佐伯の顔には驚愕の表情が浮かぶ。





「なっ?! まさか彼の能力はこの怪力か?!」





ひとまず後ろに下がるが、その時にはもうすでに不二の闇から逃れた桃城が、佐伯の心臓に剣を突き立てようと迫る。

しかしそこに長太郎が割り込み、桃城の剣を弾き返す。





『エレベイト!』





弾いてすぐ、長太郎は唱える。 それによって彼の足元の土が隆起し、桃城を襲う。

しかし、その攻撃を傍にまで来ていた手塚が無効化する。 土が形を失って元に戻るのと同時に、今度は日吉が幾本もの風の刃を放つ。

それを佐伯が同じような技で相殺し、不二が闇の刃。 忍足が炎の鞭を同時に放つ。

さすがに2つの攻撃を完全に無効化することは出来なく、3人の体にいくつかの傷が出来る。

しかしあえて守ることはせずに、それぞれ強力な攻撃を繰り出す。 その攻撃を、忍足と不二の張った結界が全て止めた。

その場の動きが、止まった。 唯一動くのは、忍足が出現させた炎のみ。

それはまるで生き物のように蠢いて、この場を紅く照らし出していた。

互いが互いの出方を窺っている。 そんな膠着状態が続く。 と、その時だった!





カツン・・・カツン





不意にした靴音。 その場ではあまりにも異質な音。

全員はその音のするほうを、じっと目を凝らして見る。 少しの後、全員が入って来たのとはまた違う場所から、現れる人影。

その姿が煉獄の炎の下に晒される。





「そっ・・・そんなまさか?!」





現れた人影を見た瞬間、長太郎の表情が変わった。

驚きで目は見開かれ、口は半開きでわなわなと震えている。





「長太郎?!」





慌てて忍足が彼に駆け寄るが、長太郎はそのままその人物を凝視し続ける。

まるでその者から目を離すことが、許されていないかのように。





「長太郎?! どうしたんや! 長太郎!!」





忍足が必死に声をかける中、その人物は口を開いた。





「よう、長太郎。 久しぶりじゃねーか。」





口元にニヤリとした笑みを浮かべて、その人物は言う。

それは全てを見下しているかのような、そんな冷たい笑みだった。





「あ・・・あっ・・・。」





「どうしたんや長太郎?! あいつは一体誰なんや?!」





長太郎の体を揺さぶりながら、忍足は問う。

それに彼はその人物から目を逸らさないで、搾り出すような声で言う。





「あっ・・・あの人は・・・俺、俺の前のマスター・・・。

 ・・・宍戸・・・亮・・・。」





この場に戦慄が走る。

その中でただ1人だけが、同じ笑みを浮かべていた・・・。









【あとがき】

出たあああああ!!! 遂に宍戸さん登場です!! 大変長らくお待たせいたしました!

彼が出てなくて残念だとアンケートでおっしゃっていた方、彼はここで登場予定だったんです。

長太郎といったら当然出てくるのは宍戸さんです。 でもただそれだけじゃつまんないなーって思って、こういう展開になりました。

それにしても遅すぎですが(汗)

さあ、これから先一体どうなるのか?! 頑張って早く書き上げたいと思います。



07.5.14



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