嘘だっ! 嘘だ嘘だ嘘だ!!

そんなの、認めるものか!!






Symphony of destiny  第九章・5





「なんやて?!」





長太郎の言葉に、思わず声を荒げる忍足。

それもそうだろう。 いきなり現れたこの人物が、5年前に長太郎と契約を切った前の主だというのだから。





「本当・・・です。 この人が、俺の主だった人です。 でも・・・何で・・・?」





長太郎のその問いに、宍戸はニヤリと残酷そうな笑みを浮かべる。

その笑みに、長太郎の背を悪寒が走る。





(この人は、こんな笑みをするような人だった? いや、そんなはずはない!

 宍戸さんは、本当に暖かくて落ち着く笑顔をしていた! なのに、この笑みは一体・・・?)





混乱する頭で、必死になって考える。 しかし思考はぐるぐると回るだけで、答えにたどり着くことは出来ない。

と、その時手塚が口を開いた。





「ずいぶんと遅かったな。」





「しょうがねーだろ。 俺だって暇じゃねーんだから。

 さて、と。 とっとと仕事終わらせるぞ。」





そう言うと宍戸は長太郎達のほうを向く。 その目のあまりの冷たさに、恐怖まで感じた。

ヤバイと、本能が告げている。 しかし体がすくんでしまって、動くことが出来ない。





「落ち着きいや。」





その時不意にかけられた声と共に、忍足の手が長太郎の頭にポンと置かれる。

それに、はっと我に返る。





「自分の気持ちも分かる。 せやけど、よく考えてくれや。

 今のこの状況で、自分の前のマスターは俺等の味方に見えるか? 見えへんやろ。

 それに、お前を見てたら分かる。 あいつは、お前の知ってるのと違うんやな? せやから、余計戸惑ってるんやろ?

 あいつは今俺等を敵とみなしとる。 今この状況で俺等に出来ること、しなきゃあかんことは何や?

 そこを、よく考えてくれや。」





彼のその言葉で、すっと頭が冷えるのを感じた。 今まで止まっていた思考が動きだす。





(そうだ。 俺の今のマスターは、忍足さんだ。 宍戸さんは、既に俺のマスターではない。

 気にはなる。 だけど、俺がすべきことはマスターと共にオーブを手に入れることだ!)





長太郎の目に、強い光が戻った。 それに忍足は安堵の息を吐き出す。

彼には酷なことをしていると思う。 しかし今のこの状況で、錯乱状態に陥ることだけは避けなければいけなかった。





「増援が来ようが、僕達のやるべきことは変わらない!」





「そうや! さあ、争奪戦の再開といこうやないか!」





不二の言葉に忍足は同調する。 それに構える面々。 ピリピリとした空気がその場に流れる。

しかしその中で、長太郎は何か頭にひっかかるものを感じていた。





(何だ? 俺は何か重要なことを忘れているような・・・?)





だがそれを思い出すことが出来ず、彼はそのもやもやを抱えたまま戦いに挑もうとしていた。





「ふん。 あがくか。 だが、それもまたいいだろう。」





手塚達もそう言って構える。 緊迫した空気が流れた。 それを破って先に動いたのは、日吉だった。





「切り刻め!!」





そう言いながら、剣を思いっきり横に薙ぎ払う。 それによって発生する風の刃。

ものすごい勢いで襲ってくるそれを、4人はそれぞれ飛んで交わす。

切って落とされた戦いの火蓋。 それぞれ1対1になるように、全員は散らばる。

手塚と忍足、不二と日吉、佐伯と桃城。 そして長太郎と宍戸。 それぞれ戦いへと突入する。





「自分は、何で王都に従うんや?」





杖を油断なく構える忍足。 彼は、対峙する手塚にそう問うた。

それに手塚は相変わらずの無表情で答える。





「その答えなど決まっている。 榊様こそが、俺がついて行くのに最もふさわしい方だからだ。

 貴様には分からないだろうな。 でなければ、このような愚かなことをするはずもない。」





彼のその言葉に、少しカチンとくる。





「愚かもんはどっちや?! 言いなりにしかなってへん奴に、そないなこと言われたかないわ!

 俺等は自分のことを全部捨てて今までこれを守ってきたんや! 愚か者呼ばわりされる筋合いはない!!」





そう怒鳴った瞬間、忍足は杖を掲げ言霊を唱える。

周囲の闇が凝縮し、手塚に襲い掛かる。 それを剣で弾き、時には土で防ぎながら攻撃も繰り出す。

激しい攻防戦が繰り広げられている中、手塚の顔には何故か微かな笑みが浮かんでいた・・・。



                                                ☆



「宍戸さん・・・。」





今、自分の目の前にいる人物に向かって、長太郎はそう呟く。

自分の記憶の中に残っている彼の顔は、少なくとも温かかった。 笑顔ではない時も多々あった。

悲しみに暮れ、苦しみに耐えている時もあった。 そんな時でも彼は暖かかった。

しかし、今目の前にいる彼は、顔は同じなのに温かさのカケラもない。 あるのは、氷のような冷たさだけ。

いつも見守っていてくれていた瞳は細められ、励ましの言葉をくれたその口は三日月形に歪み、嘲るような笑みを浮かべている。

一体何があったというのだろう。 途切れた長太郎の記憶。 自分が封印された理由。

聞きたいことはたくさんある。 長太郎は、宍戸の目を真っ直ぐに見つめた。





「ん? 何だ、長太郎?」





彼の視線に、答えようという感じで宍戸はそう言う。

その言葉1つにも違和感を感じて、長太郎は眉を顰める。





「・・・あなたに、聞きたいことがあります。」





少し静かな声で、長太郎は問う。





「何故、俺との契約を切ったのですか・・・?」





悲しみに満ちた目を向け、そう問う。 彼にとって、1番聞きたかったことはこれだった。

幸せだった日々。 これからもずっと続くと思って疑わなかった。

しかしそれは破壊され、気付いた時には自分の生きている環境はがらりと変わっていた。

今のこの状態が不満というわけではない。 実際、かなり満足している。

しかし知りたいことは知りたい。 そして今、自分の知りたいことを知っている人物が目の前にいる。

聞かずにはいられなかった。





「ああ、そのことか。」





宍戸は言う。 その言い方は、まるで世間話でもしるかのような軽いノリだった。

長太郎は、ゴクリと唾を飲み込む。





「邪魔だったんだよ。」





「・・・えっ・・・?」





あまりの言葉に、長太郎の頭が真っ白になる。

宍戸が言ったことは、彼にとっては信じられないものだった。





「一体・・・どういう・・・?」





頭が理解するのを拒否する。 あまりの動揺に、目は大きく見開かれ唇はわなわなと震える。

それだけでなく、剣を持つ手がカタカタと震えているのが自分でも分かる。

あまりにも信じられない言葉だった。 ずっと優しくしてくれていた宍戸からは、予想すら出来ないもの。

動揺しきっている長太郎に、宍戸は更に言う。





「前からウザイって思ってたんだよ。 犬みたいに付いてくるお前がな。

 とっとと契約きりたかったんだが、お前をどうするか困ってな。 ぜってえお前、追いかけてくるだろーし。

 そん時記憶を消して封印することを思いついたんだよ。

 だがまさかそれが解けるなんて思いもしなかったな。 もっと強いのかけとけばよかったぜ。」





宍戸の言葉を、長太郎は最後まで聞いていなかった。

あまりにも衝撃的すぎる理由。 宍戸を自分の全てだと思っていた彼にとっては、それは死の宣告に近かった。

もし忍足と契約していなく、彼1人だったのならば、あまりのショックで彼は己の命を他っていたことだろう。





「さて、と。 無駄話はこれくらいだ。」





突然宍戸がそう言った。 それにはっと我に返る。

彼の言葉は未だ頭にひっかかっているが、それを無理矢理追い払う。

どうしてかなんて考えるのは、後でも出来る。 それよりも今は、戦うことが先決だった。





「たとえ貴方が相手だろうと、俺は負けるわけにはいきません。」





そう言って剣を構える。 ピリピリとした空気が互いの間を流れる。

それを破って、長太郎は宍戸に向かって切りかかる。

それをなんなく避け、反撃と同じく剣を振るう。 避けた長太郎は、軽く距離を置き技を発動。

隆起した土が宍戸を襲う。 だがそれも避けられる。 そして彼は恐ろしく速く長太郎の背後に回りこんだ。





「!!!」





はっとした時はもう遅かった。 長太郎の首に突きつけられた剣。

少しでも動けば、その切っ先は彼の喉を切り裂くだろう。 悔しそうに歪む彼の顔。





「チェックメイト。 これで終わりだ。

 だが、お前は殺さない。 俺と一緒に王都に来てもらう。 ただし、物言わぬ人形と化してからな。」





宍戸はそう言い、ニヤリと笑う。 彼の言った言葉、それが頭にどうも引っかかる。

ふと考えると、まるでフラッシュバックのように記憶が再生されていく。





『すごい! マスターの力ってこれですか?!』





『ああそうだ。 俺にはエレメントの力はないが、こんな特殊な力がある。

 この、『封印』の力がな。』





(思い出した! この人の能力は封印。

 !! 俺はどうなってもいい。 マスターに伝えなきゃ!!)





思った瞬間、即座に実行に移す。 剣を恐れもせず、長太郎は口を開いた。





「マスター! 宍戸さんの力はふう・・・!!」





あと少しで全て言えるというその時!





「言う暇なんてやるかよ。 『シーアル!』。」





宍戸がそう唱えた瞬間、長太郎を赤い光が包み込んだ。

少ししてそれが消えた時、長太郎はその場に凍りついたように動かなくなっていた。

目は完全に開ききり、本来あるはずの光は失われている。 まるで時が止まったかのように、彼は止まっていた。





「長太郎!!」





忍足が、手塚と戦っているのを忘れたかのように叫び走ってこようとする。

しかしそれを手塚が許すはずもない。 息を付く間もないほどの激しい攻撃が繰り出される。





「くっ!」





それにより動けなくなっている忍足に向かって、宍戸の魔手が伸びる。

剣を構え向かってくる彼に、忍足はその攻撃が弾くように闇の結界を張る。 しかし・・・。





「なっ?!」





宍戸の放った赤い光は、その闇をすり抜けて忍足を襲った。

そして光が消えた時、忍足も長太郎と同じようになっていた。





「こんなことが可能なんて?!」





佐伯が呻く。 今や味方は半分になっていた。 しかし、このままで勝てるはずがない。

あの宍戸という人物の力は、とんでもないものだった。 あの魔導士の忍足でさえ、抵抗も出来ずにやられたのだ。

自分達が勝てるわけがない。 そう考えている間も、桃城と日吉の攻撃の手が緩まることはない。

どうすれば。 と、必死に案を巡らせていた時!





(俺等のことは気にせんで・・・行け。)





突如2人の頭に響いてきた声。 それはまぎれもなく忍足の声だった。





(あいつのあの力は危険すぎる。 俺でさえ、この声を届けるんに精一杯や。

 それにこれもすぐに出来んくなる。 あいつの力は『封印』。 これを観月達に! さあ、早う行け!!)





それを最後に、忍足の声は途切れた。 佐伯は考える。

不二の力だったら脱出出来るはずだ。 しかしそれには時間を稼ぐ必要がある。

彼は不二にしか届かない声で、自分の考えを伝える。





『周助。 俺が囮になる。 その隙に君は脱出の言霊を!』





『そんな! 危険すぎる!』





『でも今はこれしか方法がない。 ・・・大丈夫。 俺を信じて。』





そう言ってニッコリと笑う佐伯に、不二は頷くしかなかった。

彼が頷いたのを確認すると、佐伯は風を操り一気にその場にいた4人に攻撃を仕掛けた。

しかしその中で、宍戸は猛然と佐伯に襲い掛かる。 それを分かっていた彼は、風の刃を作り出して宍戸の剣を止める。

だが・・・。





「甘いな。」





赤い光が光った。 それによって自分の意識が塗りつぶされる直前、彼は不二の言葉を聞いた。





『ウィングルード!!』





とてつもなく強い風がその場に吹く。 それにさすがに4人は腕で顔を覆う。

少しして風が消え去ると、そこから不二と佐伯の姿が消えていた。





「・・・逃がしたか。」





呟く手塚。 それに宍戸が口を開く。





「だが、榊様のおっしゃってた魔導士は手に入れたし、闇のオーブも入手した。

 あいつらことはまあいいだろ。」





「そうだな。 では、戻るとするか。」





闇のオーブをその手に持ち、手塚は時のカケラを発動させた。

その空間を覆った眩い光が消えた時、そこには誰の姿もなくなっていた―――。









【あとがき】

気付いたら、2ヶ月近くも更新してなかった(ガタガタ)

大変遅くなりました! やっとこさ続きの出来上がりです。

前回宍戸さんがやっと登場し、こんな感じで話が進みました(どんな感じだよ。)

彼に関しては、まだまだ謎だらけなので今後をお楽しみに!(最近そんなんばっかじゃねーか。)

さあ、忍足と長太郎がなんと手塚達にやられてしまいました。 今後はいかに?!

・・・次の更新は、2ヶ月も先にならないように頑張りたいと思います(滝汗)



07.7.14



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