俺は決めた。 俺はもう迷わない。

たとえそれが、間違ったことだと言われても・・・。





Symphony of destiny   第九章・6





「俺が本当に望むのは・・・。」





遡ること数時間前。 赤也に叱責された真田は、自分が本当は何を望むのか答えを出した。

彼が出した答え。 それは・・・。





「何か知ってるんですかね?」





城の中でも端のほうに存在するとある建物。 そこに今真田と赤也は来ていた。

真田が出した答え。 それは『真実を知る』。 彼は榊ではなく幸村の言葉を信じたのだった。

しかし真実を知るにはどうすればいいのか。 それを2人は知らなかった。

そして、もしかしたらという望みを込めてこの場所。 乾が所長を務める研究所までやって来たのだった。





「失礼する。」





中に入ると真っ直ぐに所長室まで進む。 そして、そう声をかけて部屋の中に入る。

中には、乾と海堂の2人がいた。 しかしいつもと雰囲気が違う。 だが、それを気付かれないようにか、乾が口を開く。





「真田か。 ここまで来るなんてどうしたんだ?」





明らかに何か隠しているかのような口調。 だが、それには触れないで真田は用件を口にする。





「・・・教えて欲しいんだ。 王都が、一体何をしているのか・・・。」





真っ直ぐに乾の目を見てそう言う。 それに乾は動揺した素振りを見せる。

そして海堂に目配せをする。 海堂は言う。





「・・・俺は、話してもいいと思います。 真田さんは、王都の行動に疑問を持ったからここに来たんですよね?

 なら、これを知る権利がある。 俺はそう思います。」





彼のその言葉に、乾は覚悟を決める。





「・・・分かった。 俺が知っていることを話そう。

 だが、俺が知っていることはまだ少ない。 言えることは・・・大石と討伐隊の全員が死んだということだけだ。」





乾の言葉に、絶句する2人。

それもそうだろう。 こんな言葉など、誰が予測できようか。





「一体・・・どういう・・・?」





「そのままの意味だ。 だが、討伐隊が全員死んだというのは適切ではないな。

 紛いなりにも、彼等はまだ生きている。 しかし大石は・・・。

 俺がこのことを知ったのは、かなりの偶然だ。 榊様と判田様が話しているのを、本当に偶然聞いた。

 まず討伐隊だが、彼等は全員殺され今はあの2人の操り人形になっているらしい。 その方法は残念ながら不明だが。

 そして大石だが、このことに当然彼と竜崎様は反対した。 しかし受け入れられるはずがない。

 邪魔となった2人は、榊様達により殺された・・・。 ・・・このことを俺は聞いたんだ。

 ・・・これで真田。 お前も王都から狙われる対象になったわけだ。 知ったことがばれれば確実に消されるぞ。」





苦笑いをしながら、乾はそう言う。 それに真田も、苦笑いで返す。





「いいんだ。 赤也に言われて気付いた。 自分の意思で行動することの大切さをな。

 俺はもう迷わない。 自分で決めた道を進む。

 2人共、ありがとうな。 ここからは、俺達で出来ることを探すとするよ。」





そう言って真田は笑みを浮かべた。 それに乾と海堂も笑みを返す。

ずっと黙って見ていた赤也も、つられて笑った。 何か、固いものが溶けていくような感じがした・・・。



                                                       ☆



「マスター、これからどうするんすか?」





研究塔を出た真田と赤也の2人は、とりあえず家まで戻って来ていた。

真田の書斎で、赤也がそう口にする。 それに真田は困った顔をする。

自分達で探すと言ったはいいが、いかんせんどこから探せばいいのか分からない。

そのことで、2人は困っているのだった。





「・・・とりあえず手当たり次第にあたっていくしかあるまいな。

 数は覆いが、今はそうするしか・・・!!!」





真田がそう話していた時だった。 不意に眩い光が2人の目を覆った。

咄嗟のことに反応できず、目を手で覆うことしか出来ない。 ・・・少しして光が消えた時、そこには誰の姿も無くなっていた・・・。



                                                       ☆



「それにしてもホントに遅いねえ〜。」





忍足達が帰ってくるのを待っていた千石達。

しかしそれにしてはあまりにも遅い。 待っているのが段々退屈になってきた千石は、そう洩らす。





「そうですね。 さすがにこれは遅すぎます。 ・・・何かあったのでしょうかね?」





そう柳生が言ったその時だった。 不意に強い風が、部屋の中に吹く。

それは、彼等には当に見知ったもの。 全員はやっと忍足達が戻って来たと、信じて疑わなかった。

しかし風が消え去った時、そこにいたのは少し荒い息をつく不二と、氷のように固まったままの佐伯の姿だった。





「「なっ?!」」





驚く面々。 しかしその中で柳生だけは素早く2人の傍に。

そしてまずは意識のある不二の様子を確認しようとすると。





「・・・っ。 僕は大丈夫だから。 それより虎次郎を・・・!」





そう言って強い目で柳生を見る。 彼は頷き、直ぐに佐伯へと意識を向ける。

完全に開ききった目。 硬直しきっている体。 それはさながら死人のようだった。





「・・・まさかこれは・・・。 ・・・間違いありません。

 佐伯君は封印の能力によって、全てを封じられています。」





柳生は佐伯の胸に軽く右手を置いただけで、彼がこの状態になってしまっている原因を突き止めた。





「封印? 何それ?」





全員を代表するかのように、ジローがそう聞いてくる。

その問いに柳生は、佐伯の体の様子を見ながら答える。





「封印というのは、エレメントとはまた違う能力のことです。

 エレメント以外の能力は、芥川君自身が持っているからご存知でしょう。

 そして今回のこの能力は、ある意味私達の持っているエレメントよりも強いものです。」





柳生のその言葉に、全員に戦慄が走る。

それもそうだろう。 この世界の秩序を守っている要素であるエレメントよりも強力な力が存在することを、彼等は知らなかったのだから。





「しかしこれは攻撃向きの能力ではありません。 戦闘では当然不利になります。

 それでも今回の場合、相手が相当な使い手だったのでしょう。 現に、私はここまで強いものを始めて見ます。

 ・・・また厄介なことになりましたね・・・。」





苦虫を噛み潰したような表情で、柳生はそう言う。 彼の言葉に、不二が口を開く。





「で、でも! これを解くことは出来るんだよね?!」





彼のその言葉に、柳生はゆっくりと首を横に振る。 それは、否定。





「そんな・・・。」





崩れ落ちる不二。 彼を心配し、滝が寄って来てその背をさする。





「・・・この力は本当に特殊なものです。 解くことが出来るのは、かけた本人か相対する力を持つ者だけ。

 残念ながら、私はその封印を解くための力を持っていません。 そして・・・その力を持つ人も、私は知りません。

 残念ですが、諦めるしか・・・。」





拳を強く握り、柳生は悔しそうに言う。 絶望しきった表情で、佐伯を見つめる不二。

彼の口が動く。





「・・・僕を逃がそうと、虎次郎は犠牲になったんだ・・・。

 もう2度と失わないと誓ったのに! なのにまた僕のせいで虎次郎が!!」





嗚咽を洩らしながら、涙を流す不二。

彼に誰も声をかけることは出来なかった・・・。



                                                     ☆



「ただ今戻りました。」





そう言って部屋の中に入ってきたのは手塚。 そこに日吉と桃城、宍戸の姿はない。

そして捕らえてきた忍足と長太郎の姿も。

部屋に入って来た手塚を見て、榊は満足そうな顔をし、口を開く。





「ごくろう。 魔導士まで捕らえてくるとはな。 さすがはお前だ。 手に入れた闇のオーブはそこに置いておけ。

 あとの処理はこちらでやっておくから、お前は次の任務まで休め。 行ってよし。」





その言葉に手塚は軽く礼をして部屋を出て行った。

彼がいなくなった後、榊は部屋に残された闇のオーブを手にして1人呟く。





「今回はこちらを選んだか。 まあ、そもそもこいつは争いを好む気質をしているからな。

 ・・・これさえあれば、あの者のコントロールも出来るかもしれん。 くくく。

 全ては私の思いのままに・・・。」





黒い笑みを浮かべ、榊は嗤う・・・。



                                                    ☆



「ちょっとどいて。」





皆が悲しみに暮れる中、そう言ったのは千石だった。 声を発した人物があまりにも意外で、全員は驚く。

それを尻目に、彼はツカツカと倒れる佐伯の傍に寄っていく。 そして・・・。





『彼の物を束縛せし呪縛。 悪しき鎖を解き放て! レリーズ!!』





千石がそう唱えた瞬間、光が佐伯を覆った。 その眩しさに、思わず目を瞑る面々。

少しして光が収まった時、そこには驚いたように何度も目を瞬かせながら自分の手を見つめる佐伯の姿があった。

完全に封印が解けた彼に、不二が飛びつく。 その彼の背を何度も撫でながら、佐伯は不思議そうな顔をする。

そしてそれは、佐伯だけではなかった。 その場にいた全員が、千石を凝視していた。





「千石君・・・今のはまさか・・・?」





代表するかのように柳生が問う。 それに千石は少し困ったような顔をしながら、言った。





「今まで黙っててごめんね。 でも、必要ないと思ってたから今まで言わなかったんだ。

 ちなみにこの力のことは、榊様達は知らないよ。 この、『解除』の力はね。」





突然の告白。 それに今は、皆ただ驚くしかなかった・・・。










【あとがき】

はい! また1ヶ月くらい放置してました(汗) やっとこさ続きです☆

今回は真田の決断と、千石のもう1つの力が。 真田は、やっと決断を下しました。

赤也の言葉も借りましたが、彼はこのあと自分の下した決断に従って行動していきます。

そして千石。 やっと出番が来たよ!

では、次はいつになるか分かりませんが次回をお楽しみに!!



07.8.17



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