教えてあげる。

君達には、その権利がある・・・。





Symphony of destiny  第九章7





「ここは・・・?」





眩い光に突如包まれた真田と赤也。 気付いた時、彼等がいたのは真田の部屋ではなかった。

辺りには緑の草原が広がっている。 だが、それだけではなかった。

2人の目に映ったのは、瓦礫の山。 いや、廃墟と呼ぶほうがふさわしいのかもしれない。 それは、かなりの量だった。





『前へお進み。 こっちへ・・・。』





その時不意に聞こえた声。 2人には聞いたことのない声だったが、不思議と怪しい感じはしなかった。

そのため彼等は声に導かれるまま、廃墟の中へと足を踏み入れた。





「・・・これは、一体・・・?」





廃墟の中を進んで行くと、不意に視界が開けた。 そこにあったのは、一際大きな瓦礫の山。

何か巨大な建造物があったであろうが、今はその面影を僅かとも残していない。





「・・・よく来たね。」





不意にした声。 それに驚いて声のしたほうを見ると、そこには1人の老人が。

白く長い顎鬚をたくわえたその老人は、瓦礫の1つに静かに腰掛けていた。





「あなたは・・・?」





「わしは君達をここに呼んだ者だよ。 それ以上のことを知る必要はない。

 知る必要が、いや。 権利があるのは、王都の過ち。 王都が犯している過ちを、君達は知る権利がある。

 だからわしは呼んだんだよ。」





老人はそう言って微笑む。 そして、まだ困惑している2人に近くに座るように促す。

2人が座ると、老人は口を開いた。





「さて。 君達が知りたいと望んでいる、王都の過ちについて話そうか。

 2人はもう、500年前に一体何があったのか知っているかい?」





「はい。 知っています。 500年前、時のオーブが世界を破滅させようとした。

 そしてそれを、3人の魔導士と時の監視者と呼ばれた者が防いだ。」





真田がそう説明すると、そう。と、老人は頷いた。





「しかしその後、現代まで生きた魔導士達は世界を再びその手中に納めようとオーブを欲した。

 そしてオーブを集めている。 俺はそう榊様から聞きました。」





「・・・やはり、そう都合のよいように話していたんだね。 それは、合っているようで全く違う。

 魔導士達がオーブを集めるのは、王都の手から守るため。 逆に王都のほうが世界を手に入れようとしているんだよ。」





老人のその言葉に、2人の顔に戸惑いが沸く。 しかし自分達も王都に疑いを持っているため、何も言わなかった。

それを見て、老人は話を進める。





「魔導士達は、時のオーブの恐ろしさを知っている。 あれを制御することは、そんな簡単なことではない。

 500年前の時点で、彼等の力が今ほどではなかったといっても、相当な強さを誇っていたんだ。

 そんな彼等があんなに苦労して出来たのが封印だけ。 それを、今の指導者が出来ると思うかい?

 もしこのまま事が運んで、封印が解かれたりしたら、その時こそ世界の破滅だ。 手に入れるどころの話じゃないよ。

 これがわし達の言う過ち。 集めること事態が、既にしてはいけないことなんだ。」





老人が黙ると、その場に沈黙が訪れた。 それを破ったのは、赤也。





「・・・このことを知ったから、幸村さんと柳さんは王都から去っていったんすか?」





彼の質問に、老人は答える。





「多分、そうじゃないかと思う。 さすがに人の心までは分からないからね。

 2人は、魔導士の1人と会ってこのことを聞いた。 まあ、それ以前に疑問を持ってはいたみたいだけどね。

 特に柳君は、王都に1番長くいた。 今の指導者の前からね。 彼の指摘もあったみたいだよ。」





そう言うと、またその場に沈黙が下りた。

少しして、それを破ったのは真田だった。





「・・・では、俺達は一体どうしたらいいのですか・・・?」





「それはわしが決めることではない。 君達が自分で決めることだよ。

 だけど幸村君達みたいに、王都を離れるのならば喜んで歓迎しよう。 その時は、心でわしを呼んでおくれ。

 そうしてくれれば、わしは君達を迎えに行こう。」





老人はそう言うと、今まで座っていた瓦礫の上からよっこいしょと立ち上がった。

それに倣って、2人も立ち上がる。





「人は皆、何かを決断する時がある。 君達はそれが今なんだよ。

 さあ、そろそろお戻り。 送ってあげるから。」





そう老人が言って、軽く右手を2人に向けると彼等の足元が青く光りだした。

光が段々強くなってきた時、真田が叫んだ。





「俺達は迷いません! ありがとうございました!」





その言葉が老人に届いた瞬間、光が一層強くなって次の瞬間には消え去った。

そこには既に誰もいない。 何も無くなったそこを眺めながら、老人―オジイは1人呟く。





「・・・どうか彼等の行く先に、光のあらんことを・・・。」





言葉に呼応するかのように、風が吹く。 今は廃墟となった、かつてシルフィードと呼ばれていたこの谷に。

オジイは願う。 あの2人と、再び会えることを・・・。



                                                   ☆



「『解除』の力?」





聞きなれない言葉に、何人かが訝しげな表情をする。

それを、柳生が説明する。





「解除の力とは、先ほど私が言っていた封印の力と間逆の性質を持つ力のことです。

 封印は術者の力量によっても違いますが、生きている者の全てを封じることが出来ます。 時を止めるのとはまた違うことです。

 しかし、同じでもある。 時の停止と封印は、かけられた者には同じような作用をするんです。

 まあそれは私達にかかっている時の停止とはまた違ったものですが。 1番近いのは、橘君の力です。 彼のが1番封印に近いでしょう。

 私にかかっているのは、肉体の老化を止め傷を負ったのならばそれを元に戻す。 時間回帰の力なんです。

 そして解除は、その名の通りそのかけられた封印を解くことが出来ます。 それも術者によって違いますが、千石君のは相当強いと思います。

 佐伯君にかけられていたのは、私が今まで見たこともないほど強いものでした。

 それをこうもあっさり解くとは・・・。 千石君、あなたは一体何者なんですか?」





全員の視線が、千石に向けられる。 それに少々戸惑いながら、彼は答える。





「そんな、俺にそんな大それた正体なんてないよ。 俺は、風のエレメントを持つ元騎士。

 それ以上でもそれ以下でもない。 この力は、気付いた時から持っていた。 でも、誰かの前で使ったことは1度もなかったよ。

 使っちゃいけないって、何か思ったんだよね。 何も使い道のないこの力だったけど、やっと役に立つことが出来た。

 それが今、不謹慎だとは思うけどどこか嬉しいんだ。 とにかく今俺が言えることはこれだけだよ。」





「そうですか・・・。 しかし、それでもあなたが力を持っていてよかった。 

 そうでなければ、佐伯君の封印を解くことは出来なかったでしょう。」





柳生はそう言って、佐伯のほうを向いた。

佐伯は、未だ彼に縋っている不二の背を撫でながら言う。





「ありがとう。 周助を助けるためにああしたけど、逆に悲しませてしまった。

 千石君がいてくれなかったら、どうなっていたか・・・。 本当に、ありがとう。」





その言葉に、照れくさそうにする千石。 場に、少しだけ穏やかな空気が流れた。

しかし、それは長くは続かなかった。 やっと落ち着きを取り戻した不二が、全員に先ほど起こったことを話すと言ったのだ。





「大丈夫なんですか? 貴方達だけが帰って来たのを見る限り、大体何が起こったのか予想はつきます。

 そんなに無理をしなくても・・・。」





「大丈夫。 お願いだから話させて。」





そう言って不二は語りだす。 話の内容に、段々険しい顔つきになっていく面々。

その中で柳生が、1番険しい顔をしていた。





(まさかあの忍足君が・・・。 闇のオーブも奪われた以上、かなり危険なことになりましたね。

 このままでは、彼も操り人形にされてしまう可能性がある。 何とかして助けださなければ・・・!)





彼の雰囲気を察したのか、幸村が口を開く。





「とにかく一刻も早く行動を起こしたほうがよさそうだね。 この際、危険は承知の上だ。

 何としても忍足君達を助けないと。」





「柳生、もう悩んどる時間はないぜよ。 賽は振られたんじゃ。」





幸村と仁王の言葉に、柳生は口を開く。





「・・・分かりました。 観月君がまだ戻って来ていませんが、そんな悠長なことは言っていられませんね。

 王都に乗り込みましょう! 目的は忍足君達の救出。 そして、奪われたオーブの奪還です!」





柳生は強く言う。 不安を押し殺して。

・・・賽は投げられた。 1人の魔導士が下したこの決断。 果たして、吉と出るのか凶と出るのか・・・。



                                                     ☆



「マスター、おかえりなさい。」





リョーマはそう言って、帰ってきた手塚の傍まで寄って来る。 それに手塚は、無表情でああ。と答える。

第三者から見れば無表情そのもの。 しかし、長年傍にいるリョーマには、それが安堵の表情だということを知っていた。





(久しぶりに見るな。 マスターのあんな顔。)





心の中でそう思う。 最近の手塚は、おかしかった。

冷たい笑みを浮かべ、平気で残虐な任務をこなす。 以前は仕事と分かっていても、終わって帰って来ると苦しんでいる時があった。

悪夢にうなされている時もあった。 だが、ここ数ヶ月はそれが無かった。

悩んでいることも、うなされることも。

それがリョーマには疑問でしょうがなかった。 手塚に一体何があったのか。 知りたかったが、分からなかった。





(とりあえず、今日は安心できそう。)





そう思って、自分の部屋に向かう手塚の背を見つめる。

だが、その時だった!





「うぐっっ・・・!!!」





いきなり手塚が苦しみだしたのだ。 両手で頭を抱え、地に膝を付く。

歯をギリリと噛み締め、苦しそうな呻き声をあげる。





「マスター!!」





慌てて駆け寄るが、どうしていいのか分からない。

おろおろとしていると、不意に手塚の動きが止まった。





「マスター・・・?」





恐る恐る声をかける。 と・・・。





「どけ。」





彼の口から発せられた、氷のような声。 そう言うと同時に立ち上がった。

その足取りは、先ほどまで苦しんでいたとは思えない。 立ち上がった彼の顔を下から見上げたリョーマ。

彼が見たのは、ここ数ヶ月見ていた何の感情もない表情だった。

リョーマをその場に取り残して、手塚は去って行く。 その後ろ姿をただ見ているだけのリョーマ。





(!! あれは・・・?)





そんな彼が見たもの。 それは、手塚の体から発せられる黒いオーラのようなもの。

そしてもう1つ。 だがそれは、自分にあまりにも馴染みのある気配だった。





(一体マスターに何が起こっているんだ? 俺は、どうすれば・・・。)





その場に立ち尽くすリョーマ。 彼に言葉を投げかける者はいない。

・・・一体何が起こっているのか。 それを全て知る者はまだいない・・・。









【あとがき】

今回は1ヶ月も放置しなかったあ!(そんな威張れることではない。)

さあ、いかがでしたでしょうか? 今回はちょっと進展した感じ。

真田と赤也がオジイと接触しました。 あと、シーユの動きとか手塚がおかしいとか。

大分佳境なのにまだ謎をばら撒くか!て、時々自分で思います。

・・・早くなんとかせなっ!



07.8.28



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