私がこれからすることは、間違っているのかもしれない。

だけど、こうするしか方法はないんだ・・・。






Symphony of destiny  第九章・8





(・・・ここは・・・?)





うっすらと目を開くと、視界に入るのは緑色の光。 それと同時に、体に妙な浮遊感を感じる。

しかし、それはどこか懐かしいもの。 心地いい感じに、開いた瞼を再び閉じようとする。

だが、その時不意にカツンカツンという靴音が耳に入ってきた。

あまりの不快な音に、思わず耳を塞ごうとする。 だが、その時に気付いた。

自分の腕が動かないことに。 自分の体が、何かで固定されたように何一つ動かせないことに。





「目覚めたか。」





近づいて来てそう言った男の顔を見た瞬間、頭の中で記憶がフラッシュバックされる。

5年ぶりに再会したかつての主。 その変貌。

そして自分に向かって叫んだ今の主・・・。





「―――!!!」





榊に向かって、問いただそうとする。 しかし口から漏れたのは声ではなく、気泡。

その時に、また1つ思い出した。 何故、懐かしいと感じたのか。 そして、自分は一体どこにいるのか。

いるのは、緑色の液体に満たされた巨大な筒の中。 懐かしいと感じたのは、自分が生まれたのはこの中だから。





「知りたいことがたくさんあるだろう? それを今、教えてやろう。

 お前の今までの全てと引き換えにな。」





そう言って、榊はニヤリと嗤う。 筒の中にいる彼を見ながら。

――― 鳳長太郎。 かつて王都で作られた1体のアーティシャル。

彼は再び戻って来た。 自身の身を束縛され、主とも引き離された形で。

・・・果たして榊は一体何を語ろうというのか? 今、1つの真実が明かされる―――。



                                             ☆



「!! 乾さん! これ、見て下さい。」





自分達にしか出来ないことをしようと、真田と赤也が去って行った後乾と海堂の2人は必死に調べものをしていた。

そして、海堂が見つけたこと。 それは、王都の中でも最重要機密となっているオーブ保管室のことだった。

あそこを守っているのは、番人のジャッカルとブン太。 しかし2人のうちジャッカルの姿を見た者はほとんどいない。

唯一あるのは、榊と判田。 3強と乾だけだった。

ジャッカルと接触したことのある乾は疑問に思っていたことがあった。 それは、何故彼があの部屋から出ないのか。

聞いても、何も答えてはくれなかった。 しかし今、長い間の疑問を解決してくれるものがそこにはあった。

それが、海堂が見つけてきたオーブ保管室の機密資料だった。 本当によく見つけたものだと思う。

どうやらそれは、いつも彼等がいる研究室の資料庫の奥底にあったらしい。 木を隠すには森の中とはよく言ったものだ。

大量の資料に埋もれて、それは存在していた。





「奴等にばれる前に、早いとこ読んでしまおう。 少々痕跡が残ってしまうかもしれないが、しばらくはきっとばれない。

 ここにはほとんど来ないからな。 それに、もう奴等には必要のない資料なのかもしれないな。」





そう言いながら、埃にまみれた資料庫の中で乾はそれを開く。 その横では海堂が見守っていた。

ページを捲ると、表紙の埃が舞い上がった。 しかし中は比較的綺麗なままだったため、楽に文字を追うことが出来た。

そしてそれを、ほとんど無言で読み進めていく。





「・・・まさか?!」





次第に2人の顔に驚愕の表情が浮かぶ。





「・・・これが本当なら、ジャッカルがあそこから自力で出るのは不可能だな。

 ・・・海堂、どうする?」





乾はそう言って海堂の顔を見る。 それに彼は、微かな笑みを浮かべて言った。





「聞かなくても分かるでしょう? 俺はあなたと同じ考えですよ。

 最後に歯向かってやりましょう。 俺達には戦う力はないけれど、抗う力はある。」





海堂のその言葉に、乾もまた笑みを浮かべた。

開かれたままのページには、こう記されている。 『オーブ保管室の管理について』

――― 彼等は決断を下した。 それは、自らの命を賭したもの。

果たして彼等は一体何をしようとしているのだろうか?



                                               ☆



「・・・お前の前の主。 あいつをああしたのは私だよ。」





榊の口から発せられた言葉に、長太郎の目がこれでもかってほど見開かれる。

それにニヤニヤと笑いながら、彼は続ける。





「あいつのあの能力がどうしても必要でな。 だが、私の計画に素直に頷く奴ではなかった。

 それならば操り人形にしてしまえばいい。 私の力なら、それが可能だからな。

 だが、そうするにはお前が邪魔だった。 だから消そうとしたんだが、宍戸はいち早くそれに気付いた。

 お前を消されないようにするために、キィエの池に契約を解除してから自らの手で封印した。

 自分では解けないように、新しい主候補が来なければ目覚めないという条件をつけてな。

 お前を封印した後、宍戸をすぐに捕らえ闇に漬けた。 しかし奴は意思が強固でな。 なかなか上手くいかなかったよ。

 だが、5年の月日を費やしてやっと完成した。 今やあいつは私の忠実なる人形だ。

 他にも多くの人形を手に入れた。 これで、魔導士など恐るるにも足りぬ!

 全ては私の思うがままだ!!」





高笑いをする榊。 それを筒の中で見ながら、長太郎は涙を零す。

しかしそれは目から零れた瞬間、緑の液体に溶けてしまう。 彼は嘆いていた。 自分の全てに。





(あの時俺が宍戸さんの異変に気付いていれば。 レイダーツで俺に力があれば。

 そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない・・・。)





ひとしきり笑った後、榊は未だ楽しくてたまらないといった表情を浮かべて、長太郎を見る。

そして、開いた口から発せられたのは、あまりにも残酷な言葉だった。





「さあて。 おしゃべりはもう終わりだ。 私も忙しいのでな。

 お前も、お前の主も、有効に利用してやる。 心配なんかしなくていい。

 そんな思考能力も記憶も、全て無くしてやる。 お前はただ、私の人形として動けばいいのだ。

 さあ、そろそろ眠れ。 二度と覚めることのない、悪夢の中へとな・・・。」





そう言いながら、榊は筒の傍にあったスイッチを押す。

その瞬間、長太郎を強烈な眠気が襲う。 今意識を失ったら、二度と起きれない。

そう思うが抗うことは出来ない。





(マスター・・・宍戸、さん・・・。 ・・・ごめん・・・なさい・・・。)





最後に思い浮かべたのは、大切な人。

彼等に謝罪の言葉を浮かべた瞬間、彼の意識は完全に闇へと呑み込まれた・・・。



                                              ☆



「それでは、行くメンバーを決めましょう。」





部屋の中に、柳生の声が響く。 そこにいる誰もが、皆真剣な表情をしている。





「まず、私と仁王君。 幸村君、柳君、千石君、滝君。 あと不二君に佐伯君。

 2人共行けますか?」





「大丈夫。 精神的にちょっときたけど、そこまでじゃないから。

 それに、やられたカリはしっかりと返さないとね。」





そう言う不二に、柳生はよろしくお願いしますと言う。 そして。





「芥川君はサポーターとして一緒に来て下さい。 しかし、王都内には侵入せず外からの支援をお願いします。

 アキラ君はここに残って。 あなたはまず自分の命を優先して下さい。 そして橘君も残ってアキラ君を看てて下さい。

 向日君と亮君、祐太君もここに。 そして跡部君。 あなたもここに残って下さい。」





柳生のその言葉に、跡部は不快感を露にした。





「はあ?! 何で俺様が残らなきゃいけねーんだよ!」





「自分の立場をわきまえて下さい。 あなたが捕まれば、全てが終わる。

 時のオーブが王都の手に渡ってしまったら、本当に世界が滅びてしまいます。

 それに、あなたの命も・・・。 忘れないで下さい。 跡部君、あなたの心臓が時のオーブであるということを。」





柳生のその言葉に、跡部は反論出来ない。 彼の言っていることは最もだった。

跡部は拳を固く握り締め、俯いた。





「跡部君・・・。」





彼のその姿に、千石が耐え切れずに声をかける。

それを、柳生が今はそっとしておきましょうと言って止めた。 そして・・・。





「さあ、時間がありません! 行きましょう!!」





彼の言葉に全員が力強く頷く。

そして、柳生が言霊を唱える。 光がその場を覆いつくす。

それが消え去った時、柳生達の姿は消え去って入た。 後に残されたのは、戦うこと叶わぬ者達だった・・・。



                                             ☆



『敵襲! 敵襲! 兵士達は持ち場に付け!!』





城の中を、慌しい音が支配する。 大量の兵士達が走り回る音と、指示を繰り返す声。

そして、各所から聞こえるズズン、ズズンという鈍い音。

それらを聞きながら、真っ白な部屋の中心で物思いに耽る。





(・・・この音は、きっと幸村達だ。 多分、もう少ししたらここにも来るだろう。

 しかし、それでも俺は・・・。)





絶望に表情を歪め、必死に耐えるジャッカル。 部屋の中は、強力な結界によって守られているため、音はするがびくりともしない。





(守りの力が強すぎるってゆーのも、不便なもんだな。 !!)





自嘲気味に笑ったその時だった、不意に部屋の外からした足音。

それに、彼の体が固まる。

果たして、近づきし者は一体誰なのだろうか?



                                             ☆



『我の前を塞ぎしものをそぎ落とせ! シェイブ!』





柳生がそう唱えると、城にいくつもの穴が空く。 しかし、瓦礫が落ちてくるようなことはない。

それは、柳生のその攻撃が物を破壊しているのではなく消し去っているから。

無のエレメントは、破壊するのではなく消滅させる。 物の存在を消し去るのだ。





『雷よ! 彼の者達にその力を! ライトニング!』





大量に押し寄せてくる兵士達を、仁王の落とした雷が蹴散らす。 感電した兵士は、次々とその場に倒れていく。





「やるねえー。」





仁王と柳生の戦いっぷりを、千石がそう評価する。

しかしそう言いつつも、手に持つ剣を振るい時には風を使い薙ぎ払う。

他の5人も、それぞれ戦っている。





「幸村君! 柳君!」





そんな中だった。 不意に2人を呼んだのは柳生。

彼の声に、2人は戦う手を止めずに返事を返す。





「何?!」





「ここは私達がなんとかします! 君達は以前言っていたジャッカル君の所へ!

 あそこにはオーブもあるのでしょう?! 彼を助けつつ、奪取してきて下さい!」





それに、2人は大きく頷く。





「分かった! じゃあ、行ってくるから! 蓮二、行くよ!!」





「ああ!」





そう声を掛け合うと、2人はその場から跳躍した。

そして、目の前に立ちはだかる兵士達を切り倒しながら、その場を離れた。

少し離れると、今度は完全に撒くために幸村が結界を張る。 それによって見えなくなる2人の姿。

戸惑う兵士達を尻目に、2人はオーブ保管室へと向かって走り去って行った。

それの気配を背中で感じながら、柳生は無事に戻って来ることを祈る。 と、その時だった!





「! 皆避けろ!!」





滝の言葉よりも早く、殺気に気付いた体が勝手に動く。

宙に飛び上がって数瞬の後、強力な重力場が今まで全員がいた辺りを襲った。





(あれをさすがに喰らっていたら危なかったなあ。)





そう思いながら、地に着地する。 視線を上げると、そこには懐かしい面々。





「菊丸君に伊武君・・・。 それに桃城君に日吉君・・・。」





千石が、苦しそうに呟く。 彼等の顔には、表情というものがまるでない。 能面のような顔。

そして決定的だったのは、4人の首元から見えた痣だった。





「・・・やっぱり幸村の言ってたことはホントだったんじゃな。

 馴染みのある奴等だから、ホント戦いにくいぜよ。 だけど・・・手は抜くなよ。

 こうなった以上、早く開放してやるしかないんじゃ・・・。」





彼等のほうが面識はなくても、自分は知っていた仁王がそう苦しそうに言う。

それは千石も同じで、その目に深い悲しみを灯していた。





「そうだね・・・。 でも、このままじゃあ皆が可哀想すぎる。

 待ってて。 今、自由にしてあげるから!」





そう振り切るように叫んで、千石は剣を構えた。

戦いが今、始まろうとしていた―――。









【あとがき】

やっとここまで来たあー!!

最近、再び調子が戻ってきたのかかなりノリノリで書いてます♪

さて、今回の後半から遂に戦闘に入りました。

仲間を助けるために、敵の真っ只中に飛び込んでいった彼等。 さあ、一体どうなるのでしょうか?!

ここから話は一気に進展します。 どうぞ、次回をお楽しみに!!



07.9.2



BACK ←  → NEXT





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送