本当に、ここから出られるのか?

本当に・・・?





Symphony of destiny  第九章・9





部屋に近づいてきた気配。 2つのうち、片方はジャッカルも知っているものだった。

それに、俺もここまでか。と、腹を括る。 だが・・・。





「ジャッカル! そこにいるな?!」





聞こえてきたのは、乾の声。 それに返事を返す。





「ああ、いるぜ。 ・・・オーブを手に入れに来たんだろう?

 残念だが、それは出来ない。 ここの扉は開けてやらないぜ。」





「違う! そうじゃない。」





乾のその言葉に、ジャッカルの目が見開かれる。

どういうことだ?と、少し震える声で返す。





「俺達はお前を助けに来たんだ。 王都のやっていることに、耐え切れなくなってな。

 だが、戦うにしても俺達にはその力がない。 だから、出来ることをしようと思ってな。

 どうせばれたらすぐに消される運命だ。 それならばこの命、有効に使おうと誓った。

 ここから出してやる。 結界さえ消せれば、何の制約もなくなるからな。

 ・・・こうやって話すのも最後だ。 ジャッカル、これからは自由に生きろよ。」





彼の言葉に、ジャッカルは何となくだが2人が何をしようとしているのか分かった。

どうやるのかは分からないが、2人は自分の命と引き換えにジャッカルを自由の身にしようとしているのだった。

確かに自由にはなりたい。 だが、人の犠牲の上でまでなりたいとは思ってはいなかった。





「止めろ! 俺はそんなこと望んじゃいねえ!!」





そう叫ぶように怒鳴る。 すると聞こえてきたのは、海堂の声。





「止めたって無駄ですよ。 俺達はもう決めたんですから。

 ジャッカルさん、あなたは生きてくださいね。」





彼の言葉は残酷だった。 生きろ。 たった数文字の言葉なのに、その重みは計り知れない。

ジャッカル泣いた。 その場に崩れ落ちるようにして。 彼に2人を止める力は、無かった・・・。



                                               ☆



「・・・やはり攻めてきたか。」





自室にある大窓から外を眺めながら、榊はそう言葉を洩らす。 彼の傍には、目を見開いたまま動かない太一。

そして同じ部屋の中にあるソファには、ニマニマとした笑みを浮かべる判田が座っていた。





「まあそれは最初から分かっていたことでしょう? 魔導士を餌に使うなんて、中々思いつきはしませんよ。

 そして強大な力を持つ者がいなくなっている隙に、アジトに入り込みオーブを入手する。 あなたも狡猾ですね。」





「ふん。 それくらいのことをするのは当然だろう。 そうでもしなければ、楽に事を運ぶことは出来まい。

 だが、宍戸がこちらにいる限りは負けることはないがな。 奴の能力は魔導士をも上回る。

 ・・・さあ太一。 そろそろ見つけたか?」





そう言いながら、榊は太一のほうを見る。

すると太一の体がビクッと震え、今まで焦点のあっていなかった目が元に戻った。





「・・・ありました。 ・・・シーユ。 結界によって・・・隠された地。

 オーブ・・・が。 互いに引き合い・・・道を・・・示す・・・。」





太一のその言葉に、榊の顔にどす黒い笑みが浮かぶ。 しかしそれを、判田は見ていない。





「分かった。 ご苦労だったな。」





「では、早速そこに向かいましょうか。

 敵がここにいる間に事を起こしたほうが楽でしょうしね。」





「ああ、そうだな。 ・・・だが判田。 お前はここまでだよ。」





「!!!」





榊がそう口にした瞬間、首筋に感じた凍えるような冷たい気配。

そしてそれとは対比した、熱い液体が静かに流れる感触。

ぎこちなく目線だけで後ろを見る。 そこにいたのは、何の感情もなく判田の首筋に剣を押し当てている宍戸の姿だった。





「一体どういう・・・!!」





「どういうことだと? それはお前の今の状況が示してくれているだろう。

 判田、お前も所詮私の駒の1つでしかなかったんだよ。 人間をアーティシャルに出来るという特殊な能力。

 それがあったから今まで生かしてやっていただけだ。 しかし駒が全て揃った今、お前の存在意義はなくなった。

 闇のオーブも手に入れたしな。 これからまた人形が欲しければ、私の力を増幅させて作ればいい。

 どちらにしても、お前はもう用済みなのだよ。 そして、こいつもな。」





そう言って榊は傍にいた太一の頭に、いつの間にか持っていた銃を突きつける。

しかしそうされても、太一は無反応なままだ。





「戦闘能力のないこいつも、全てが済んだ今では用済みだ。 ここで処分するに限る。

 唯一不安なのは亜久津だが、それも私の力で抑えきれよう。 判田、今までご苦労だったな。」





榊がそう言った瞬間、宍戸が剣を振り上げた。 判田が何か言おうとしたが、そんな隙も与えずに彼の体を一気に切り裂いた。

彼の体はソファから落ち、床に崩れ落ちる。 それと同時に、どす黒い血が彼の体から溢れ出し池のように広がった。





「くくく。 これで1つ片付いたな。

 ・・・こいつもここで処分しようかと思ったが、やはり少し先に延ばそう。

 太一、手塚の元へ行きシーユへの道を示して来い。 それが終わったらまたここへ戻れ。

 あと、亜久津も一緒に行かせるとしよう。 3人いれば、十分だろうしな。」





そう言うと榊は隣の部屋へと入って行く。 そこにあるのは、緑色の液体が詰まっている筒。

部屋にいくつもあるそれ。 そのうちの4つには、人影。





「・・・亜久津はあちらへ行かせるとして、丸井はオーブ保管室へと向かわせるとしよう。

 あいつらもここのオーブを入手しようとしているはずだしな。」





そう言いつつ、近くにあったタッチパネルを操作する。

すると亜久津とブン太の入っている筒の水が、静かに引いていった。 そして完全になくなると、2人の目がゆっくりと開いた。





「さあ、仕事だ。 亜久津。 お前は太一と共に手塚の元へと向かい、そのままシーユへと行け。

 そこで時のオーブの器と残りのオーブを全て入手して来い。 その他の奴等は全て殺せ。

 丸井。 お前はオーブ保管室へと行け。 そしてオーブを持って来い。

 いいか、ジャッカルは殺せ。 あいつも裏切り者だ。 他にも邪魔な者は全て殺せ。」





榊の言葉に、筒からでた2人は無表情で頷く。





「よし。 分かったのならば行け!」





彼がそう言うと、3人の姿はこの場から消え去った。

カツンカツン

1人残った榊は、人影のある残りの筒へと近寄って行く。 そこにいたのは、身じろぎもしない忍足と長太郎の姿。





「鳳は出来そうだが、やはり魔導士。 こいつはどうも無理そうだな。

 殺すのも無理、か。 ならばこのまま封印をかけた状態にするしかあるまい。 そうすれば奴等も何も出来ぬ。

 ・・・しかし、私の力が通じぬとは。 腹立たしい。」





榊の顔に、軽い苛立ちが浮かぶ。

しかしそれでも、彼の思い通りに事が進んでいるのは間違いなかった・・・。



                                                    ☆



バリバリと、雷が辺りを覆う。 それを同じような技で相殺し、仲間に被害が出ないようにする。

しかし、それを読んでいたのか菊丸は一気に仁王に向かって間を詰めてきた。





「ちいっ!」





そう悪態をつきながらも、自分もそれに応戦する。 しかし、どうしても躊躇いが生じてしまう。

自分にしては珍しいことだと思う。 それではいけないと思いながらも、それでも力を抜いてしまう。





「仁王君!」





そう言って2人の間に割り込んできたのは千石だった。 風の刃を飛ばして、菊丸を引き離す。

そうしてやって来た彼に、仁王は弱気な言葉を溢す。





「すまんの。 じゃけえどうしても躊躇ってしまうんじゃ。

 確かに俺は王都内の知り合いはほとんどおらん。 じゃけど菊丸は違う。

 あいつとは、結構仲良かったんじゃ。 そいつが敵になるなんて・・・。」





「その気持ちは俺にも分かるよ。 俺だって亜久津を助けられなかった。

 だけど、このままだと皆はずっと榊様の人形だよ? そうなるくらいなら、いっそ俺の手で。

 俺はそう思うよ。」





そう言う千石。 しかし彼に目にも悲しみの色はあった。

かつての仲間を殺すということ。 それは、苦痛となって自分の身を襲う。

出来ることならば助けたい。 しかしそれは叶わぬ願い。 それならば、と千石は覚悟を決める。





「・・・そうじゃな。 いつまでも榊の人形のままじゃあ、こいつらも苦しいしな。

 分かった。 俺も覚悟を決める。 千石、ありがとうな。」





「どういたしまして。」





仁王のその言葉に、千石はそう返す。

彼等も決めた。 自分達が今、何をすべきかを。





「絶対助けてやるからなっ!!」





2人はもう迷わない。 それがたとえ、かつての仲間であっても・・・。



                                                 ☆



「亜久津さんに太一? 一体どうしたのさ。

 ・・・まさかもう任務だなんてことはないよね? マスター、ちょっと前に帰って来たばっかなんだけど。」





突然手塚の家の入口に現れた亜久津と太一の2人に、リョーマはあまりいい顔をしない。

今から任務というのも嫌だったし、それよりも手塚にここにいて欲しかった。

急に変貌した原因も分からぬまま、また戦いに赴くなど反対だった。





「任務です。 榊様から受けてきました。」





太一のその言葉に、リョーマは溜め息をついた。

文句を言っても仕方ない。 榊は絶対の存在なのだ。 歯向かうことが出来るはずもない。





「分かった。 ちょっと待ってて。 今マスター呼んで来るから。」





「いや、その必要はない。」





リョーマがそう言って手塚を呼びに行こうとしたが、不意にその本人の声がした。

振り返るとそこには手塚の姿。





「今回は何だ?」





「今回の任務は、マスターと貴方達2人でシーユという場所に行って頂きます。

 そこは魔導士達の拠点があります。 そしてオーブも。

 そしてそこで時のオーブの器と、残りのオーブを全て手に入れて来て下さい。 それが内容です。」





太一のその言葉に、2人は頷く。 それを見ると彼はリョーマに近づいて来て言った。





「シーユの場所ですが、越前君に伝えます。 君の力で飛んで下さい。」





そう言って太一は目を軽く瞑って、リョーマの額に自分の右手の掌を軽く当てた。

そこからリョーマに、太一のイメージが伝わってくる。 





(えっ?)





頭の中に広がるイメージ。 それは、確かにシーユという場所への行き方。

そしてもう1つ。 それは・・・。





「・・・これで行けますです。」





そう言って太一は掌を離した。 彼の顔を、リョーマは見つめる。

しかしそれに気付いた太一は、目で口に出して言わないように訴える。 そして・・・。





「では、僕はこれで榊様の所へと戻ります。 気をつけて。」





そう言うと太一はくるりと踵を返して、その場から去って行った。

彼の後ろ姿を、呆然と見送るリョーマ。 と、手塚が声をかけた。





「リョーマ、亜久津。 先に下へ行って準備をしておけ。

 俺もすぐに行く。」





「あ、はい。 分かりました。」





リョーマがそう言うと、手塚は2人に背を向けて自分の部屋へと向かった。

後に残された2人は、リョーマの案内で、魔法陣のある地下へと向かう。

歩きながら、リョーマは考える。 先ほど太一が送ってきたものの意味を。





(一体何だったんだろう? 『君は、負けないで。』って・・・?)





考えても答えは出ない。 リョーマはまだ知らない。 その言葉の意味を。

そして、闇の中で苦しむ太一の、最後の覚悟を・・・。










【あとがき】

何故、バトルシーンがないんだろう・・・? 予想外ー!!

でも話はちょっと進みました。

榊はとてつもない悪役に。 そしてばんじいは悲劇の人に。

ちなみにばんじいのこの最後は、かなり前から考えていたものでした。

でも書いててちょっと可哀想だったかも(汗) 救いがなくてごめんなさい!

さあ、この章はあといくつで終わるのか?! ・・・頑張ろう。



07.9.7



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