僕の覚悟。 それが例え意味のないものだったとしても、それでもいい。

ただ、あの人に伝わってさえくれれば・・・。





Symphony of destiny  第九章・10





「きりがありませんね。」





剣を薙ぎ払いながら、柳生がそう呟く。 確かにその通りだった。

討伐隊の4人だけではなく、彼等を止めようと多くの兵士達も押しかけていた。

しかしそれごときでは怯みもしない。 だが、いかんせん数が多すぎた。

と、そろそろ痺れを切らしたのか、不二が動いた。





「皆! 僕から離れて! 一気に仕留める!

 『闇よ! この場を覆いつくせ!!』」





彼がそう唱えると、周囲を闇が覆った。 突然のことにパニックに陥る兵士達。





「地に平伏せ。」





不二がそうボソリと言った途端、目に見えない重圧が敵に一気にかかった。

すぐに晴れる闇。 そこに立っていたのは、討伐隊の4人だけだった。





「うーん。 さすがに頑丈だね。 結界を咄嗟に張って闇をやりすごすなんて。

 まあいい。 これで決着が早くつくだろうからね。」





そう言うが早いか、彼の背後にいた4人が一斉に動いた。

柳生は日吉。 仁王と千石は菊丸。 佐伯と滝は伊武。 そして不二は桃城。 それぞれの戦いに突入した。

しかしこの時一体誰が予想していただろうか? 事態は、彼等が思っている以上に深刻なことに・・・。



                                              ☆



「待たせたな。 行くぞ。」





そう言いながら、靴音を響かせて手塚が地下へと降りてきた。

それを見て、待っていたリョーマと亜久津の2人は魔法陣の中央へと行く。

手塚も2人の傍へと来た。





「じゃあ、行きますよ。 『カレントムーブ』!」





リョーマがそう唱えると、魔法陣が光りだした。 その光は3人を包み込み、時の歪みへと誘う。





(何か、いろいろ分からないことだらけだ。

 今回のこの任務が終わったら、俺なりに調べてみようかな。)





光の中へと消えながら、そう考えるリョーマ。

彼も何か疑問を持ち始めていた。 それが手遅れということも知らずに・・・。



                                                ☆



「さて。 赤也、お前はどうする?」





シルフィードから戻ってきた真田と赤也の2人。

真田の部屋で、彼は赤也にそう問いかけた。





「俺は今から榊様の所へ行く。 多分、無事ではすまないだろう。

 下手をすれば、消される恐れもある。 正直、俺はお前を連れていきたくはない。

 今ここで契約を切り、王都から一刻も早く立ち去ったほうが・・・。」





「マスター、それ以上は言わないで下さい。」





赤也はそう真田に言った。





「俺は自分の意思で契約を結んだ。 それは俺がマスターを本当に尊敬していたからっす。

 ここまできてハブにしないで下さいよ。 最後まで一緒に行かせて下さい。」





「・・・分かった。 ありがとうな・・・。」





赤也のその言葉に、真田はそう返した。 正直、とても嬉しかった。

自分1人で行くという決意はしていたが、多少は心細いものがあった。 しかし赤也を巻き込むわけにはいかない。

元々これは自分の起こしたことだから。 そう思っていたからこそ、真田はああ言ったのだ。

しかし赤也は最後まで付いて来てくれると言った。 それに、彼は心から感謝した。





「・・・ならば、早速行こう。 これ以上、あの人を野放しになど出来ないからな。」





「はい、マスター。」





赤也がそう言った瞬間、だった。 不意にした何かが爆発するような音。

真田の家は比較的城に近い場所にあったため、その音がよく聞こえた。





「なっ、何なんですか?!」





多少慌てふためく赤也。

しかし真田はすぐに部屋の中にあり、城が見える窓まで行き閉まっていたカーテンをシャッと引き開けた。





「!! あれは・・・!」





そこから見えたのは、一部から煙の出ている城。 そして時々する爆発音。

明らかに何者かに襲撃されているようだった。





「マスター、まさか・・・。」





「ああ、多分魔導士達だろう。 何があったのかは知らないが、城に襲撃をかけるとは。

 急ぐぞ赤也! 早くしないと、あの人が離れる可能性がある。」





「了解! でもマスター、魔導士達がいるってことはきっと幸村さん達もいますよね?

 どうするんすか?」





「・・・とりあえず今会うことは出来まい。 いや、会わないほうがいいか。

 俺達のやるべきことが終わってからなら、会ってもいいかもしれんな。 今なら、あいつの言っていたことが分かるよ。」





そう言う真田。 互いに道の違えた、かつての仲間。

しかしそれが今、再び交わろうとしている。 真田にとって、それが嬉しくないはずはなかった。





「・・・さあ、行くぞ!」





真田はそう言って身を翻した。 その後ろを、赤也は付いて行く。

果たして2人の運命はどうなるのだろうか・・・?



                                              ☆



「海堂、始めるぞ。」





乾がそう言うと、海堂は軽く頷いた。 そして、着ていた白衣の懐から1本のナイフを取り出した。

鞘を抜き放つと、鈍い銀の光と共に鋭い刃が。 そのナイフを、海堂は躊躇うことなく自分の右手に突き刺した。





「お前はあっちからやってくれ。 俺は逆からやる。」





乾の言葉に彼は頷く。 そしてナイフを渡すと、固く閉ざされた扉の左端へとかけて行った。

その間にも彼の手からは真っ赤な血が滴り落ちていた。

ナイフを受け取った乾も、海堂と同じように右手を突き刺した。 そして、彼は扉の右端へと行く。

たどり着くと、彼はおもむろに血だらけの手を床に押し付けた。 そして、何かを書き出す。





「乾さん、これで本当に出来るんですかね?」






「今更それを言うなよ。 出来なかったら、俺達は単なる無駄死にだ。

 海堂、あとどれくらいだ?」





「もう少しです。 そこまで複雑なものではないですからね。

 素人の俺でも、楽に描けますよ。」





・・・2人が今、何をしているのか。 彼等は今、魔法陣を描いていたのだ。 それも自分の血で。

海堂が発見した資料には、ここの扉を開ける術も記されていた。

それは、血で魔法陣を描き生贄を捧げること。

判田がここにジャッカルを連れて来た時も、彼は同じ方法で結界を張っていた。

即ち、生贄の血で魔法陣を描きその者を捧げる。 殺された怨みがここに強く残り、より結界を強固なものにしたのだ。

それを解く方法はいたって簡単。 同じ方法を繰り返すのだ。

血でその場に染み付いた魔法陣を浮き上がらせ、生贄によってそれを破壊する。

そうすれば結界は解け、ジャッカルは晴れて自由の身となるのだ。

しかしこれを実行するには、犠牲がつきものになる。 生贄となった者は、必ず命を落とすのだ。

だが、2人は迷わなかった。 彼等の決断。

自分達に出来ることをで、王都に抵抗をする。 それを果たすために、彼等はここにいる。





「・・・よし、これで完成だ。」





乾と海堂の描いていた魔法陣が繋がった。 真紅の血で書かれた魔法陣。

これが、ジャッカルを救うための希望となる。





「・・・これで最後だ。 海堂、今までありがとうな。」





「いえいえ。 あなたにはいつも手をやかされていましたが、それも楽しくてよかったです。

 ありがとうございました。」





互いにそう言いあう。 そして・・・。





「じゃあ、始めるか。」





乾のその言葉に、海堂は頷く。 そして彼の口から言霊が紡がれようとしたその時だった!





「乾、海堂!!」





突然した声。 その方向を向くと、そこには久しく会っていなかったかつての仲間。

彼等の姿に、2人は苦笑いを溢す。





「タイミングが悪いな。 幸村、蓮二・・・。」





駆け寄ってくる彼等。

しかしこの時、彼等はまだ気付いていなかった。 もう1人、傍に来ていたことに・・・。



                                                   ☆



「アキラ、体のほうは大丈夫か?」





橘が心配そうに言う。 それにアキラは努めて明るく返した。





「大丈夫ですよ。 心配しないで下さい。

 マスターは前から心配性なんですから。 もっと俺を信じて下さいよ。」





彼のその言葉に、橘はああそうだな。と、苦笑いで返す。

彼等の様子を見ながら、岳人は言う。





「あの2人、本当に互いを信じあってるよな〜。 ってか、マジいいパートナーだと思うよ。

 俺もあーゆーパートナーが欲しいぜ。」





「向日は騎士じゃないから無理だよ。

 まあもし出来ても、パートナーは苦労するかもね。」





「何だと?!」





仲間達が戦いに出かけている中、ここは本当に平和だった。 心配でないわけがない。

しかし、留守番を頼まれたからには行くわけにはいかない。

せめてしみたれた空気になるのだけは嫌だと、こうして半分ふざけ合いながら会話をしているのだ。





「ちょっと2人共そんな言い合いしないで下さいよ。」





岳人と亮の言い合いに、祐太が慌てながら間に入る。

その様子を、跡部は部屋の隅から静かに見つめていた。





(・・・俺は今、本当にこんなことをしていていいのか?)





先ほどから繰り返していた疑問を、再び自分にぶつける。 仲間達は全員、戦いに赴いて行った。

だが、自分だけはここにいる。

本当は自分も行きたかった。 記憶にはないが、心が叫んでいた。 かつて彼等と共にいたということを。

はあ。と、何回目かも分からない溜め息をつく。 と、その時だった!





「!!! この気配は?!」





跡部が突然叫んだことに、驚く面々。 しかしすぐ気付いたのか、全員に緊張が走る。





「侵入者だ! それもこの気配は・・・手塚?!

 3強が何でここにいるんだよ?! ここは結界に覆われているんじゃなかったのか?!」





「多分、千里眼の力を持った奴の仕業だ! 結界を張ってる柳生がいなくなった。

 それによって力が弱まって、ここの場所を見ることが出来たんだよ! 橘! 跡部と神尾連れて下がってろ!!」





岳人のその言葉に、橘は2人を連れて行こうとする。 しかし・・・。





「冗談じゃねえよ! ここでも逃げろと? 俺のプライドが許さねえ!

 それに相手はあの3強だろ? お前等だけでなんとかなると思ってんのかよ?!」





「それは思ってなんかねえよ。 だけど、お前が捕まったら終わりなんだよ!

 奴等の狙いは間違いなくお前だ!」





互いに言い合う跡部と岳人。 そこに、横から見ていたアキラが割って入った。





「俺も逃げません。 ここで戦います。」





彼のその言葉に、驚いたのは橘だけではなかった。 全員が驚愕の表情をする。





「アキラ、お前自分が何を言ってるのか分かってるのか?!

 戦うってことは・・・。」





「はい、分かってます。 俺はもうここで終わりでしょうね。

 マスター、最後の命令やっぱり守れません。 本当にごめんなさい。」





今にも泣きそうな顔で、アキラはそう橘に謝罪する。 そのあまりの痛々しさに、橘も思わず顔を背けた。

全員が悲痛な顔をしていた。 それを振り切るように、アキラは言う。





「そんな顔しないで下さい。 どうせ俺はもうそんな長くはないんですから。

 どこかで静かに死ぬより、このほうがよっぽど本望ですよ。 さあ、早くしないと。」





彼のその言葉に、全員は動き始める。 戦いのために。





「・・・悪い。」





その中で、跡部がアキラの傍に寄って来て言った。

彼には今、罪悪感が渦巻いていた。





「気にするなよ。 これは、俺が自分で決めたことなんだから。

 それよりも、この状況をどう乗り切るかを考えなきゃ。」





その言葉に、跡部は静かに頷く。 そして、そこを静かに去って行った。

後に残されたのは、アキラと橘。





「アキラ。」





「・・・なんですか?」





「俺は、お前を決して1人にはしない。」





そう言って、橘もそこを去って行く。

彼の言葉の真意に気付いたアキラは、今まで耐えていた涙を1筋だけ、そっと零す。





「・・・結局俺は、守りたいと思っていたものまで道連れにしてしまうのか。

 マスター、ごめんなさい・・・。 でも、ありがとうございます・・・。」





橘の背中を見つめながら、そっと呟くアキラ。

彼等の覚悟。 それは時に悲しい結末をもたらす。

・・・ゴオッという音と共に、巨大な炎が屋敷を包み込んだ・・・。



                                                ☆



「・・・ただ今戻りました。」





そう言う声と共に、部屋の中に姿を現したのは太一。

彼が戻って来ると、榊は彼の元に近づいて行く。 その右手に握られていたのは、鈍く黒光りする銃。





「ご苦労。 お前の仕事は全て終わりだ。 永遠に休め。」





そう言うと、その銃口を彼の頭に向ける。 それでも無表情な彼の顔。

しかし彼の胸中は違った。





(マスター・・・。)





肉体は全て榊によって支配されていた。 しかし、彼の心までは支配することは出来なかった。

彼の命令通り動いていたが、本当の思いは違った。 彼の心は、常に血を流し続けていたのだ。

しかし心までは支配されていなかったといっても、それでは抵抗出来なかった。

そのため今までずっと言いなりになり続けていたのだ。 それは、殺されようとするこの時でも変わらない。

だが、以前と変わったものがあった。 それは、自分の心を相手に届けれるようになったこと。

きっかけは、千石がここで殺されそうになった時だった。 あの時、必死になったら僅かにだが彼に意思を伝えることが出来た。

それは、自分の思いがとても強かったから。 あのあと幾度となくためしたが、全てが失敗した。

だが、自分が死ぬ間際。 その時の心の叫び。 それならば、伝えられると思った。

自分の、本当に最後の思いを。 尊敬してやまない、主の元へ。





(僕がいたから、マスターはあんなことに・・・。

 最後に、僕の思いを伝えます。 これしか出来ないけれど、これでマスターが支配を解けるのなら・・・。)





心でそう思う。

そうこうしている間に、銃の撃鉄が上がるカチリという音がした。 いよいよ最後だ。

そう、構えたその時だった!





「榊様、あなたに話があります。」





そのセリフと共に、ノックもせずに部屋の中に入って来たのは真田と赤也だった。

2人は、目に入ってきた状況にかなり驚いていた。 それもそうだろう。

榊が、今まさによく見知った者を殺そうとしていたのだから。





「なっ・・・?!」





「ほう。 お前達か。 一体何の用だ?」





「それを言う前に、あなたに問いたい。 この惨状は全てあなたがやったことか?!」





真田が激昂する。 赤也も、かなり複雑な表情をしていた。

部屋の中で見たのは、血に濡れ床に平伏す判田の体。 そして、銃口を突きつけられている太一の姿だった。





「ああ、これのことか。 そうだ。 全て私がやった。」





「あなたはどれだけの命を奪い、支配したら気が済むのだ?!

 討伐隊も、大石のことも。 あいつらの命は、貴様のおもちゃではないわ!!」





真田のその言葉に、榊は一瞬驚いたような表情を見せた。 しかしすぐに元の、何事もなかったかのような表情に戻る。

そして今まで太一に向けられていた銃口を、2人に静かに向けた。





「・・・どうやらお前達も、そのままでは私の駒としては使えぬな。 後悔するがいい。

 知ってしまったことに。 知りたいと思ってしまったことに。 だが、もう全てが手遅れだ。

 貴様等も、私の駒のコレクションの1つに加えてやろう!!」





そう言うが早いか、引き金を引く榊。 銃声が、城の中に響き渡る。

・・・真田達は、榊を止めることが出来るのだろうか? 闇が、渦巻いた・・・。









【あとがき】

さあ、今回は乾と海堂が何をしようとしているのかが明らかに。

彼等はジャッカルを助け出すために、自分の命を差し出すという覚悟をしていたのです。

そして真田と赤也も動きました。 彼等の運命はいかに?!

次回をお楽しみに!



07.9.9



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