どんなり不利だって、決して諦めたりしない。

最後まであがいて、あがきまくってやる!





Symphony of destiny  第九章・12





強烈な炎が、屋敷全体を包み込む。 しかし柳生の張った結界がまだ効いているのだろう。

燃えているという感じはしない。 だが、張っている本人がいない以上破られるのは時間の問題だろう。





「亮! 俺達で一旦外に出るぞ! とりあえずこの炎なんとかしないとヤバイ。」





「分かった。 4人はここにいて。 その間にオーブを隠して。

 王都に持っていくのが危険だからって、ここに置いていったのがまさか裏目に出るなんて・・・。

 岳人、君が風のオーブを使えば互角に戦えるんじゃないの?」





「無理だな。 元々の戦闘能力が違いすぎるんだ。

 使ったって俺じゃあ完全に使いこなせない。 それで盗られたら元も子もないだろ。」





岳人の言葉に、全員は納得するしかなかった。 岳人とて、決して弱いわけではない。

情報屋として、かなりの修羅場を潜ってきているのだ。 その彼が無理だと言う。

それは、敵がそれほど強いことを意味していた。





「2人共。 手塚のエレメントは空中にいればさほど脅威ではない。 土のエレメントは、直接地面に触れている時に1番力を発するからな。

 だが、手塚のことだ。 その対策はもちろんしてあるだろう。 とにかく、このことは一応覚えておいてくれ。」





橘の言葉に頷く。

そして岳人と亮の2人は、行って来ると言い部屋の中から一瞬で消えた。

後に残った4人の顔には、心配の色が濃く出ていた・・・。



                                               ☆



「・・・そろそろか。」





手塚がそう呟く。 その途端、何本もの風の刃が3人に襲い掛かる。

攻撃が届く前に、全員避ける。 しかし風の刃に紛れて飛んできた、数え切れないほどの針。

不意の追撃だったが、3人共結界を張ってやりすごした。





「ほう。 珍しい能力だな。」





そう手塚が言う。 3人の前には、岳人と亮の姿。

2人共、先ほどの不意打ちが通じないということは分かっていたのか、何も動揺していなかった。





「見たことないでしょ。 俺の『傀儡』の能力。 多分、持ってるのは俺だけだよ。」





そう言いながら、亮は右手を胸の前まで上げる。 指の間には、細い針が大量に握られていた。

亮の能力『傀儡』。 それは、その名の通り物を操る能力。

だがそれには条件がある。 操れるのは無機物のみ。 たとえ虫であろうとも、生き物は一切操ることが出来ない。

その条件さえクリアすれば、亮は大体のものを操ることが可能だ。

現在、彼が愛用しているものの1つが針。 力を籠められたそれは、意思を持ち相手へと襲い掛かる。





「たとえどんな力を持っていようと関係ないな。 そこをどけ。

 オーブと器をこちらへ渡してもらおう。」





「ふん。 それだけで帰る気なんてさらさらないくせに。

 オーブも跡部も、お前等なんかに渡すものか!」





そう岳人が言った瞬間、2人の姿が消えた。





「その程度の力で、この俺を倒せると思うな!」





手塚のその言葉を合図に、リョーマと亜久津が動いた。

岳人の放ったいくつもの風の塊を、抜群の反射神経で避ける亜久津。 右手を前に突き出すのに合わせて、炎が渦を巻く。

体の回りを灼熱の炎に包まれた岳人。 だが、彼はそれを強烈な突風で吹き飛ばす。

炎が消えた瞬間、岳人は言霊を唱える。





『サイクロン!!』





亜久津を竜巻が襲う。 地にストンと降り立った岳人。

多少荒い息をつきながら、竜巻を見つめる。





「あの中は刃物のように鋭い風が吹き荒れてる。 あいつといえど、無傷ではすまない・・・!!」





完全に油断していた。 いきなり岳人に襲い掛かってきた炎。

あまりに突然のことで、体がうまく反応してくれなかった。 ヤバイ!と思ったその瞬間、眼前に出現したのは風の盾。





「神尾!」





岳人を助けてくれたのは、アキラだった。 力を使ったからだろう。 息が若干荒い。

だが、それを気にせずにアキラは言う。





「向日! 油断するな! 亜久津の力は、まだこんなもんじゃねえ!!」





アキラがそう言ったのに合わせるかのように、亜久津が再び動いた。

炎の塊がいくつも彼の周囲に出現し、腕を前に振り下ろすのと同時に2人に襲い掛かる。

それぞれ宙に舞って回避するが、それを見越していたのか追撃の攻撃が。

さすがに避けきることは不可能で、咄嗟に風の盾を張る。 だが、その時だった。





「カハッ!」





無理をしすぎたためであろう。 アキラが血を吐いたのだ。

それによって弱まる結界。 それを見逃す亜久津ではなかった。 炎が襲い掛かる。





「神尾!」





咄嗟のことに、岳人も反応しきれない。 炎がアキラを焼き尽くそうとしたその時だった!





『クロース!』





突如した跡部の声と、アキラの前に現れた半透明の膜。

彼の張った結界は、亜久津の放った攻撃を全て吸収した。





「跡部?!」





突然のことに驚く2人。 彼等の元に、跡部が駆け寄る。





「バカ野郎! 何で出て来たんだよ?! あいつ等の狙いはお前なんだぞ?!」





「はあ?! 折角助けてやった礼がそれかよっ! あのままじゃ確実にやられてただろうが!

 それに、もう守られてばっかなのは嫌なんだよ!」





跡部のその決意に、2人は何も言うことが出来なかった。

彼はふん、と言うと剣を腰から引き抜いた。





「お前等、俺がいつまでも前のままだと思うなよ。

 観月達の話を聞いてから、多少だが技を思い出したんだ。 いっとくが・・・強いぜ。」





そう言うが早いか、跡部の体がその場から消えうせた。 次の瞬間には亜久津の後ろ。

振るった剣が煌めく。 咄嗟に亜久津は避けるが、完全に避けることは出来ずに傷を負った。

あまりの速さに、岳人とアキラの2人は動いた軌道を見ることも出来なかった。 ニヤリと笑う跡部。





「ふん。 見えるわけねーだろ。 『空間移動』。

 空間を歪めてその間を動くんだ。 見えるなんてありえねーんだよ。」





不敵に笑いながら、剣を垂直に構える。 そしてそれを一気に前に突き出した。





『スラップ!』





時空を裂いて、目に見えない刃が亜久津に襲い掛かる。

防ぐことの出来ないそれに、亜久津はなす術がない。 全身に受ける傷。

だが、それでも彼の顔に表情はない。 不気味なそれに、跡部の背筋に悪寒が走った・・・。



                                              ☆



『ツウィスト!』





リョーマがそう唱えると、自身の体の前に出現する透明の膜。 それは、淳の放った何本もの針の軌道を歪めた。

リョーマの作り出したこれは、時の歪みによって軌道を全て変えられる。 そのため、針は彼に届かなかったのだ。





「まったく、厄介な力だよ。 でも、跡部と違って君のは完全じゃない。

 だから、対処法はあるんだよ!」





そう言うが早いか、両手に持った針を一斉に投げる。

意思を与えられたそれは、全てがバラバラの軌道を描いてリョーマに向かって飛んでいく。

咄嗟に自身の周囲の時を歪ませて、盾を作り防ぐ。 しかし。





「ここががら空きなんだよ!」





一瞬のうちに亮の姿を見失ってしまったリョーマ。

どこかと目線を走らせていたその時だった。 頭上からした声。

頭を上へ向けると、そこには口元にうっすらと笑みを浮かべた亮。

次の瞬間、リョーマに向かって放たれたのは針よりはるかに鋭い、大ぶりのナイフ。

何本ものそれは、防御されていないがら空きのリョーマの頭へ向かってそれぞれ飛んでいく。

リョーマの目が大きく見開かれた―――。



                                            ☆



「・・・久しぶりだな。」





「ああ。 シルフィード以来だな。

 あの時から、再び貴様と合まみえるのを楽しみにしていたぞ。 今度こそ、息の根を止めてやる。」





そう言葉を交わしながら、互いに剣を引き抜く。 ピリピリとした空気が漂う。

屋敷の入口の扉の前、そこで橘と手塚の2人は対峙していた。





「これで最後だ。 次はない。

 俺かお前。 ここで今までの決着を付けるぞ!!」





橘がそう怒鳴った瞬間、2人の姿がその場から消えた。

数瞬の後にした、剣と剣がぶつかり合う音。 甲高い金属音が響く。

ギリギリと鍔迫り合いをする。 空気が張り詰め、2人共そのまま動かない。

だが、その状況を動かしたのは手塚だった。





『アースランス。』





ポツリと呟いたその瞬間、橘の足元から不意に飛び出した土の槍。

瞬時に反応し、空中に跳躍して逃れる。 空中なら安全だ。 そう思っての行動だった。

しかし、ここで予期せぬ出来事が起こった。





「甘いな橘! 『リオット!』」





手塚がそう唱えた瞬間だった。 いくつもの岩が橘めがけて飛んできたのだ。

土のエレメントはその特性上、空中へと何かを飛ばすことはほぼ出来ないとされている。

しかし、手塚はそれをやってのけた。 それに、橘は目を見開く。

彼の能力は時の停止のみ。 リョーマや跡部と違い、他の時の技は使えないのだ。

しかし彼はそれを明かさずに3強となった。 それが意味する所。

それは、橘の剣術や体術が手塚を遥かに上回っているということだった。





「これくらいで俺を倒せると思うなよ!」





恐ろしい勢いで反応した橘の剣が、飛んできた岩を全て叩き切る。

その反射神経と判断に、今度は手塚が驚かされることになった。

手塚の攻撃を全てかいくぐり、地面へと降りた橘はそのままの勢いで手塚に攻撃を仕掛ける。

あまりの猛攻に、手塚は守りに徹するしかない。 そして、その攻撃の合間に橘は密かに唱えていた。

時の停止を発動するための言霊を。





『タイムストップ!』





橘の口から言霊が紡がれた。 それによって手塚の動きは完全に止まり、彼が勝利するはずだった。

だが・・・。





「そうはさせない! 『タイムブレイク!!』」





突如したのはリョーマの声。 そして彼から紡がれた言霊は、橘の技を打ち破るもの。

パリンという音と共に、技が消滅する。 突然のことに、思わず唖然とする橘。





「何故、ここに?! 亮は・・・?!」





「あの人ならそこにいるよ。 さすがにさっきのは危なかったよ。 もう少しでやられる所だった。

 でも、俺のほうが上手だったね。 空中へと飛んだものに、時の攻撃を交わすことは不可能。

 それに気付いていれば、やられずにすんだのに。」





リョーマの言葉に、橘は戦いの最中だというのに後ろを振り返った。

果たしてそこには、血まみれの亮が横たわっていた・・・。





「亮!!」





思わず駆け寄る。 抱き起こすと、まだ意識が残っていたのかその口が微かに動いた。





「・・・ごめ・・・ん。 俺・・・は、もうダメ・・・だ・・・。 淳・・・ホントに・・・ごめん・・・ね・・・。」





そう、最後の力を振り絞って言い終わった瞬間、亮の全身から力が抜けた。

呼吸をする音も聞こえない。 体はどんどんと冷たくなっていく。 彼の体を抱えながら、橘は静かに涙を零した。





「これで邪魔者が1人消えたな。」





氷のような声でそう言う手塚。 それに、亮の体をゆっくりと横たえた橘が、静かに立ち上がる。

振り返った彼からは、恐ろしいほどの殺気が放たれていた。





「貴様等・・・!!」





猛獣のようなそれに、リョーマは怯むが手塚は笑みを浮かべた。

それは、恐ろしいほどの笑み。





「それでこそ貴様だ! やっと6年前の貴様に戻ったな。 それを待っていたんだ!」





手塚の顔が狂気に歪む。 剣を構え、一気に突っ込んでいく。 それに応戦する橘。

熾烈な戦いの火蓋が今、再び切って落とされた―――。



                                              ☆



「あっ・・・ああああっ!!」





「! 淳君?! 一体どうしたんですか?!」





リルシールにいたはじめと淳。 オーブが無事なことを確認していた時だった。

不意に淳が頭を抱えて苦しみ出したのだ。 涙が止め処なく頬を伝う。 慟哭が響き渡る。





「淳君、すいません!」





わけを聞こうとしたが、取り乱した淳は一向に落ち着かない。 それにはじめはこのままではと思い、拳を彼の鳩尾に突き入れた。

気絶し、倒れる彼を支え、地面に静かに寝かせる。 そしてはじめは、淳の額に右手をそっと置いた。





「すいません。 本当はしてはいけないんですが・・・。 僕は少しだけしか見れませんから。

 あなたに何があったのか、教えて下さい。」





その瞬間、暖かな光が漏れる。 少しして手を離した時、はじめの頬にも涙が伝っていた。





「まさか亮君が・・・。 あなた達は双子。 互いを共有していたんですね。 だから、片方の痛みを受けてしまった・・・。

 ・・・彼の死を、乗り越えて下さい。 それはまだ難しいけれど、あなたになら出来ると僕は信じる。

 君は僕の後を継いでくれると言った。 いずれ消え去る運命の僕の後を。 それは即ち、人々を見守り続けるということ。

 たくさんの死に直面するでしょう。 そして優しい君はその度に涙を流す。

 ・・・亮君、あなたの死を無駄になどしません。 必ず、守り抜いてみせます。」





そう呟くはじめの目には、新たな決意が見えた・・・。



                                               ☆



「何なんだこいつは?! 不死身かよっ?!」





跡部は休むことなく亜久津にむかって攻撃を繰り出している。 それによって彼には傷が。

しかしかなりダメージを受けているはずなのに、彼は倒れる気配がない。 それに軽い恐怖を感じながらも、攻撃を止めない。

跡部が戦っている傍では、岳人がアキラの治療に追われていた。 血を吐いた後、倒れこんでそのまま動けなくなってしまったのだ。

時折心臓を強く掴み、苦しそうに更に血を吐く。 それに、本気でまずいと岳人は感じた。





「神尾! しっかりしろよ!」





治癒の力のない岳人に出来ることは少ない。 だが、それでも懸命にする彼。

その彼に向かって、アキラは声を振り絞って言う。





「向日、逃げ・・・ろ! 俺はもう、戦え・・・ない。 お前・・・も、気付いただろ?

 亮・・・が死ん・・・だ。 このままだ・・・と、取り返しのつかない事態に・・・なる。」





「でも、お前等を置いてなんか行けるかよっ!!」





「行くんだ!!」





急に大声で叫んだアキラ。 それによって再びむせ、血を吐くがそれでも彼は止めようとしない。





「俺は・・・もう、どうせ・・・助からない。 だったら、せめ・・・て最後に役に・・・立たせてく・・・れ。

 今ま・・・で、ありがと・・・な。」





そう言って口元に笑みを浮かべる。 岳人の目に涙が浮かぶ。 行くのなら、全員と共に。 その願いは叶わない。

世界のために、ここから脱出するために。 彼はこれから仲間を見殺しにするのだ。





「悪い・・・。」





ポツリと口から出たのはその一言のみ。 だが、アキラには彼が言いたいことが分かった。

――― ごめんなさい。 生きます。 貴方の死を無駄にはしない。 ありがとう。 ―――

様々な感情の籠められたその言葉を聞き、アキラは満足そうな顔をした。

これで大丈夫。 彼は、きっと。





「行け! ここは俺が食い止める! 跡部!!」





そう言いながら、アキラは最後の力を振り絞って立ち上がる。 そして、跡部の元へと駆け寄っていく。

彼の後ろ姿を少し見、岳人は反対方向に走った。 屋敷のほうへ。 祐太とオーブの元へと。





「神尾?! お前、何で来た?!」





「説明してる時間はねえ! とにかくお前はここから脱出しろ! 今、向日が屋敷へ行った。

 あいつと祐太と一緒に、オーブを持って早く行け! ここは俺が食い止める!!」





必死の形相で、アキラが言う。 反論しようとしたが、彼の目に宿った覚悟に何も言うことが出来なかった。





「・・・分かった。 ありがとな・・・。」





そう言うと、跡部はばっと身を翻してそこから走り去った。 それを満足そうな目で見てから、前を向く。

剣を持ち、炎を従え無表情で立つ亜久津。





「どれだけ出来るのかは分からないけど、出来るだけやってやる!!」





アキラの足が、地面を強く蹴った―――。



                                                  ☆



「祐太! オーブは?!」





屋敷の中に駆け込んだ岳人の姿に一瞬驚いたものの、すぐに祐太は返事を返す。





「ここにあります! 一体どうなってるんですか?!」





「詳しいことはまたあとで話す! 跡部が来次第、すぐにここから離脱するぞ!」





2人がそう会話していたその時、不意に感じた殺気。 咄嗟に避けると、床から土の槍が突き出してきた。

驚き、見た先にいたのは長太郎。 しかし、ここを出て行った時とは明らかに違う。

それに、瞬時に彼が操り人形とされてしまっているのではという、最悪の事態が頭をよぎった。

いきなりの事態に思考が付いていっていないその時、今度は炎の攻撃が。 次に現れたのは真田だった。

長太郎と同じように、光のない目。 最悪だ。と、岳人は思った。

次の瞬間、2人の姿が消えた。 攻撃に対し、2岳人と祐太は防戦一方になってしまう。

と、真田の剣の切っ先が祐太の服を裂いた。 それによって、零れ落ちるオーブ。





「しまった!」





慌てて拾おうとするが、その隙を付いて一斉に攻撃される。 あまりの猛攻にこれまでかと思ったその時だった!





『彼の者達を闇の当たらぬ地へと導け! カレントムーブ!!』





不意にした跡部の声。 次の瞬間、2人は青い光に包まれる。 何が起こったかも分からないまま、2人の姿がこの場から掻き消えた。

彼等が最後に見たものは、すまなそうな表情を浮かべる跡部の姿だった―――。



                                                ☆



「がっっ!!」





手塚の剣が、橘の腹部に深く突き刺さる。 一瞬の油断だった。

遂に力つき、体を深く突き刺されたアキラを、その瞬間をその目で見てしまったまさにその時、彼はまったくの無防備だったのだ。





「これで、終わりだ。 貴様との因縁。 ・・・俺の勝利だ。」





そう言って、剣を引き抜く。 崩れ落ちる橘。 体に力が入らない。 自分の死を確信した。

うっすらと目を開けると、少し先に横たわっているアキラの姿が目に入った。

手を、伸ばす。 少しでも近くに、と。 その時、不意に体が浮いた。

後悔の念に捕らわれていたリョーマが、別の方向を向いていた手塚の目を盗んで橘をアキラの傍に連れて行ったのだ。





「マスター・・・今ま・・・で、ありがとう・・・ござい・・・まし・・・た・・・。」





最後の力を振り絞って、そう言葉を残すアキラ。 その頬に涙が伝う。





「俺も・・・礼を言・・・う。 ありがとう・・・。 共・・・に、逝こ・・・う・・・。」





アキラの手をしっかりと握り締め、橘は言う。 それに微かに頷くと、アキラは呼吸をすることを静かに止めた。





(皆、すまない・・・。 後は任せたぞ・・・。)





そう思うと、橘の意識もまた深い闇の中へと沈んでいった・・・。



                                                  ☆



「さすがにこの人数はキツイなっ!」





剣と技を駆使し、跡部は戦う。 しかし、いかんせん戦力が違いすぎる。

だがそれでも必死に戦っていたその時だった。





「やっと見つけたぞ。 時のオーブの器よ。 さあ、私と共に来い。 宍戸、やれ!」





不意にまた別の声がしたかと思った瞬間、禍々しい赤い光が自分を全て包み込んだ。

それによって急速に遠のいていく意識。 仲間達に会いたかったと、跡部は最後に思った・・・。



                                                    ☆



「くっ、ははははは!! やったぞ! 器と残りを手に入れた!」





高笑いするのは榊。 彼の傍には、5個のオーブと宍戸によって封印された跡部。

時のオーブを解放するために必要な物が、榊の手に渡った―――。





「これで後は丸井がオーブを持ち帰り、封印を解くのみ!

 さあ、行こうではないか! 私に全てをもたらしてくれる地へ!!」





高らかに言う榊の後ろには、彼の人形とリョーマ達。 その中でリョーマだけは、唯一疑問を持っていた。

しかしそれを言うことは許されない。 それを言えば彼も・・・。

リョーマは榊の命令で時空移動を発動する。 青い光がその場を包み込む。

それが消え去った後、そこに残されていたのは破壊された物と3つの遺体のみだった・・・。





――― 世界は再び破滅へと向かう。 果たして、それを止めることは出来るのだろうか? ―――









【あとがき】

この話ながっ!! 書いててホントにビビリました(汗)

この章、かなり長くなってしまったので、シーユの出来事を1話に詰め込んだらこんなことに。

まー、こんなに長く書いたのって初めてかも。

さて、今回もまた死者が。 橘とアキラについては書いていて悲しかったです。

もっとスペースがあれば細かくかいたんですが、そこはあえてスルーで(汗)

でも彼等は自分で決断し、ああいう結果を選んだのです。 それがどんなに悲しい結末だったとしても・・・。

さあ! 長すぎたこの章も次回で完結です! 次は王都の面々の話になります。

お楽しみに!!



07.10.25



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